第一章 少年期事件編 ⑥
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座った椅子は落ち着かない。
どうでもいいニュースも落ち着かない。
椅子の向かいにはテーブルではなく、椅子がもう一対という不自然な部屋の中で。
チャンネルを次々と切り替えては違和感を抱いた。
(おかしい)
なぜ、ニュースに、事件になっていないのだろうか。
夏にはまだ早いというのに、首筋をいやな汗が流れる。
今になって_、ではないが、誘拐して以来ずっと後悔している。
なぜ、こんなことをしてしまったのか自分でも全く分からない。
そして、またチャンネルを切り替える。もう何度目だろうか。
正直、家柄だけに大ニュースになっていると思っていた。そして、それを見てひどく焦るのだろうと。
しかし、ニュースになっていないというのは、これはこれで焦る。焦るというよりは奇妙さの方が上回っている。
意外と放任家庭で、捜索届の類を出していないのだろうか。あるいは、捜索届は出したが、一日やそこらでは事件として扱われないのだろうか。なんとなく、後者の方な気がするが、
ガチャッ
背後から聞きなれた音がした。一人暮らしのはずなのに、誰かが部屋にいるというのは戦慄ものだ。だが、その正体は一人しかいない。
ロープを解かれたのだということを悟った。
どうする。
覆面を被る時間はない。
見られたらおしまいだ。
朝一から、ニュースをかぶりつくように見続けていて、焦り続けていて、まともに思考できるはずなどなかった。
とりあえず、することは一つしかない。