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誘拐から  作者: 高束奏多
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第四章 青年期解決編 ②

 無言のままの食事。言葉なはかなか見つからない。

 ようやく沖田さんが言葉の端緒を探り当てた。

 「そういえば先生って将棋をやるの。」

「どうしたんだ、急に。」

「先生が眠っている間、暇だから押し入れを整理していたの。そしたら、将棋盤を見つけたから。」

「あぁ、小さいころ遊んでいただけ。愛着があったから、引っ越しの時に持ってきたんだけど、_やる?」

こくりとうなずいた後、押し入れから将棋盤を取り出してきた。あんな手前においていただろうか。いや、最初からやるつもりで手前においていたのか。話し始めた時点で僕もやるのだろうと思ったから。

 先攻は譲った。

先攻はが有利かどうか知らないけど、なんとなくそんな気がした。だから、年長者の意地というか、今から負けたときの言い訳をするのではないけど、僕は後攻を選ばせてもらった。

 「僕が王をもらうから、沖田さん、先攻どうぞ。」

 すごく些細なことで、たったこれだけのことだけど、自分で言っていて、大人げなさに悲しくなってきた。

 「じゃあ、遠慮なく。」

 かくして始まった将棋はおそらく僕と沖田さんの楽しいかはともかくとして、初めての遊びと呼べる時間。

 角筋の歩をあげた。

 「飛車の前の歩をあげて。」

 もちろん、両手がふさがっている状態の僕は駒を進めることができない。「二六歩」などと言えばかっこもつくのだろうが、僕レベルではマスを数えるのに思考を割く余裕はない。

 沖田さんは振り飛車で、僕は居飛車。まだ、そこから動くことはない。

 「沖田さんはどこで将棋を教えてもらったの。」

 「お父さん」

 「お父さん?」

 「うん。ああいうお父さんだったけれど、唯一将棋だけはしてくれたの。別に、遊んでいて楽しいとかは特に思ったことはなかったけど。」

 「てっきりネットゲームとか一人でやっていたのだと思っていた。お父さん、そういう面もあったんだね。」

 「だからって、それでいいお父さんになるわけではないけど。」

 その通りだ。

 成った龍がそのまま僕の陣地を蹂躙してくる。僕の飛車は一向に成れないまま歩の前を行っては戻ってを繰り返している。

 「実際は十回もしていないけど。先生が言った通り、ネットゲームがほとんどで、あくまできっかけというだけ。」

 「ネットゲームで将棋をやっていたなら、チェスとか麻雀とかもやるの。」

 「ルールくらいは。でも、将棋が一番面白いから。」

 そうこう話しているうちに、飛車を取られ、銀も桂馬も取られてしまった。右半分はほぼ瓦解した。これがネットゲームだったら早々に投了していたかもしれない。結局、そのままずるずると攻められ続け、あっさりと負けた。

 その後も、続けて二回やった。慣れないながら、振り飛車や角替り、あの手この手やってみたが、まったくといっていいほど歯が立たなかった。

 「強いね」

 「弱いわね。というか弱すぎるわ。やっていたんじゃないの」

 「友達と昔、遊んでいたくらいで。」 

「先生はいつもそう。誘拐だって。見切り発車で、ただ単調に進むだけ。後先考えず、今動いているところだけを進めるだけ。」

「それは確かに、あたっているかもしれないね。そそっかしくて、周りが見えていないとか言われることあるし。そう言われると、こういうのって性格が出るね。」

「まぁ、そういうものでしょ。」

「じゃあ、沖田さんはどんな性格なの。」

「そういうのは本人がやっても意味ないでしょ。自分で考えなさい。」

 にべも無く答えると、あっという間に駒を片づけた。

 「もう終わり?」

 「うん。弱いもの。まだネットゲームの方がましね。強くなったらまた相手してあげる。」

 この状態でどうやって強くなるんだよ。というかそんなにやりたくはないし。

 それ以降、沖田さんのその言葉とはうらはらに何度か将棋の話を持ちかけられた。僕はそれを断るという権限をもっていない。「どうせ暇でしょ」の一言で付き合わされる。結果は言うまでもない。詰み一択。投了はさせてくれない。

 沖田さんは回数を重ねるほどに強くなっている。そのことを褒めると「そんなことはない。先生が弱くなっているのよ。」と一蹴される。

 弱いのは自覚するところだが、弱くなっているとはさすがに思わないけど。

 「もう一局する?」

 「いや、止めとく。疲れたし、どうせ相手にならないから。」

 「そう。分かったわ。」

 そんな日々が続いた。


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