第四章 青年期解決編 ①
不思議と痛みはなかった。沖田さんはいない。出かけているのか。
目を覚ました時、これが夢落ちでありますようにと願った。監禁される前か、できることなら監禁する前がいい。でも、そんなことはない。
リビングから部屋に運ばれている。両手共に二対の手錠で繋がれている。姿勢的にはかなりしんどい。腕がだるい。
僕は嫌いだ。
どうしてあんなことを言ってしまったのだろう。
完全に悪手だ。
僕は被監禁者で弱者だ。あの場では沖田さんに迎合しておくべきだった。仮令僕のプライドが許さなかったとしても。
このことはもう考えても仕方ない。
それにしてもあんな風に殴られるとまでは思わなかった。感情を表に出すことの珍しい沖田さんが。それだけ、僕のことを。
これからどう接すればいいか。
僕がというよりは、沖田さんがどう対応してくるか。
かわいさ余って憎さ百倍。あの暴行が憎しみによるものなら、これからもそれは続く。沖田さんはお父さんには手を上げられたことはないと言っていたけど、お母さんはいつも叩かれていたらしい。沖田さんにとって監禁と同じように暴力も身近なものだとしたら、それが続く可能性はある。
物音がした。
沖田さんが帰ってきた。
「ごめんなさい。」
帰ってくるなり、買い物袋を放り捨てた。そして、駆け寄ってきて抱きついてきた。
「ごめんなさい。そういうつもりはなかったの。痛い?」
「いや、大丈夫。」
また、あの恐怖支配に暴力が加わって、行われると覚悟したけど、どうやら、その当ては外れた。
威圧的な態度ではないからといって、怖くないわけはない。
「傷はできてないみたいね。」
頭をなでるその手は言葉と同じくらい優しくて、同じくらい怖い。
「その、つい感情的になってしまっただけで、もう絶対殴らないわ。だから、許してほしいの。」
なんか拍子抜けしたけど、これはどうなのだろう。沖田さんの家ではずっとDVが行われていた。昔テレビでやっていたけど、DVにはDVサイクルと言って、緊張期、爆発期、ハネムーン期のサイクルがあって、優しくなる時期もあるらしい。沖田さんはそういう環境で育ったせいで、暴力の後にやさしく接するというのが自然と身についていて、今がそうなのかもしれない。ただ、そういうようなものではない気がする。本当に突発的なものだったのだろう。
憎まれてはいない。まだ、好かれている。むしろ、その歪な愛は大きくなっているかもしれない。それは、憎しみと同じくらい厄介だ。
「うん。許す。でも、僕は_」
「それは言わないで。」
僕が何を言おうとしたのかを察したのだろう。言いたいことは言えなかったけど、おそらく、伝わっている。それでも、僕の気持ちを知った上で、沖田さんの気持ちは変わらないのだ。
「とりあえずご飯作ってくる。」




