第三章 青年期事件編 ⑰
「どうでした。」
「何が」
「何って、テレビ。」
「知らない。」
これは初めてのパターン。反抗期なのか知らないが、ふてくされている。まぁ無理もない。
いつかはこの質問をしようと思っていた。なんとなく微妙な空気になっているけど、事件と向き合うには今ほどの好機はなかなか訪れないだろう。
意を決するというほどでもない。が、やはり沖田さんに話しかけるのは少し勇気がいる。まじめな話をするのは特に。
「沖田さんは、いつまで監禁_この生活を続けるつもりなの。」
睨まれた。
「ずっとよ。」
「ずっとって、一生?」
「そうよ。」
「こんな生活がずっと続けられると思っているの。」
「なんとかする。」
頑なだ。何とかしようと思ってできるほど簡単な生活ではない。そんなことは沖田さんも分かっているはずだ。どうしてそこまで。目的は。
「何のために、こうするの。僕を閉じ込めて。」
返事はない。
確か以前、僕の中では理由はない。あるいは楽しいから、ということで納得させ、思考をやめた。ただのの推測にすぎない。
もう一度。
「何で_」
「好きだから。」
質問を遮られた。
意味が分からなかった。急に、いったい何が好きなのか。
一応の想像はついてしまった。決して鈍感系主人公を演じるつもりはないけど、そんなはずはない。
その可能性が最初に思い浮かんだが、二つ目の候補が思いつく前に否定する。
それでも、打ち消したはずの一つ目の可能性が頭を離れてくれない。
二つ目の候補、他の好きなものが思いつかない。
「返事は」
「その好きっていうのは_」
「先生のことよ。ここまで言わなくてもわかりなさい。」
皆まで言われた。一つ目の可能性でやはり合っていた。それ以外は思い至らない。それでも、やっぱり意味が分からない。もっと意味が分からなくなる。
なぜ好きなのか。
好きなら、なぜ監禁するのか。
「その、よく分からなくて、いろいろ聞きたいのだけど、いいかな。」
「もちろんかまわないけど、あまりじらさないでね。」
とんでもないプレッシャー。
「いつから好きなの。」
「さー。覚えてないわ。気が付いた時にはすでに。」
「何で好きになったの。僕なんかのことを。」
「先生、謙虚が過ぎるわ。私を助けてくれたからよ。」
「お父さんのことか。」
「えぇ。お父さんから救い出すために連れ出してくれたんでしょ。」
違う。そうじゃない。理由もなくやってしまっただけで、その時はお父さんの事情も知らなかったし。そのことは沖田さんも知っているはずなのに。
「先生さっきから質問ばっかり。それとも、そんなに私に興味があるの?」
そう話す沖田さんは楽しげで、さっきまでの儚さは微塵も感じられない。いつも通りの、本来の沖田さんだった。
「じゃあ最後の質問だ。」
「いいよ。」
「沖田さんの気持ちは分かった。」
「ありがとう。好きだよ、先生。
「好きなら、好きなのに_、なぜこんな風に監禁するんだ。」
「そんなの決まっているじゃない。好きだからよ。」
禅問答か何かだろうか。まるで答えになっていない。
「それはどういう_」
「だから、好きだから。好きな人とはずっと一緒にいたいし、好きなものはずっとそばに置いておきたいし、繋ぎ留めておきたいじゃない。」
満面の笑み。
つまり。沖田さんにとっては僕という存在が、女の子にとってのぬいぐるみとか、男の子のコレクションとか、科学者のホルマリン漬けとかそういうレベルということなのだろうか。
「あっ。じゃあお父さんも私のことを愛してくれていたということかしら。」
本当にそう思っているのか。思考についていけない。
「それで、返事を聞かせてもらえる?」
言ってもいいのだろうか。
「返事は」
言ってしまったら、あともどりできなくなる。
「先生っ」
それでも、言わなくてはいけない。
「ねぇ」
もう言うしかない。
「僕は_僕は嫌いだ。」
言ってしまった。
沖田さんの顔からみるみる血の気が引いていく。ただ、呆然と、そして僕を凝視している。
自分で言ったことだけど、今更後悔が押し寄せてくる。嘘でも、好きと言った方が良かっただろうか。
でも、こんな生活を続けたところで何の意味もない。
覚悟を決めて言ったことだ。
「じゃあ。なんで私を誘拐したの。なんで、ずっと、そばにおいてくれたの。」
「それは_」
「好きだからじゃないの。」
目をそらしてしまった。
ガチャン
そのすきにもう片方の手も自由を奪われてしまった。
いつの間に用意したのだろうか。それともずっと、携帯していたのか。
直後、頭に激痛が走った。
身体がずり落ちていく。
薄れゆく意識の中、かろうじて捉えた沖田さんは右手に何か棒のようなものを持っていた。
殴られたのか。
暗転




