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誘拐から  作者: 高束奏多
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第三章 青年期事件編 ⑯

 夕方のニュース。

キャスターがさよならを告げる。

 「遅いわねぇ」

 最初はドラマのCMか何かだと思ったが、違った。再現ブイか。男性のナレーションの声と共に番組は始まった。再現ブイのクライマックスでスタジオへ。オープニングもないまま司会者が語り始めた。

 思っていた通り、重く暗い番組。

 一本目は猟奇殺人鬼に息子を奪われた男の復讐劇。こんなある種劇的な話と並列に僕たちのことが語られるのか。

 無言のままテレビだけが流れていき、やがて新たな再現ブイが始まった。

 六年前の事件らしいこと。

 僕たちの地元で、僕たちの小学校。

 語られる情報の一つ一つが僕たちのよく知っているものだった。

 間違いなく、想像通り、案の定それは僕たちのことだ。

同じ小学校の先生が誘拐したこと。共犯説も出たが、捜査状況から単独犯と断定。しかし、犯人逮捕にもかかわらず、未だに被害者は見つからない。すでに、死んでしまっている可能性が高い。それでも、親は今も懸命に捜索を続けていると。

内容としては当時から新しいものはない。

そう。事実は正誤のものとして全員が認識を共有できる。けれど、人の感情はそうではない。

スタジオでのコメントは聞くに堪えないと腹をくくっていた。でも、そんなことはなかった。

「少女の未来を奪った。」

そんなことはない。むしろ、ましな環境になったと言っているし、それどころか、なぜか楽しそうにしている。

「親がどれだけ心配しているか。」

そんなことはない。親は心配なんてこれっぽっちもしていないらしい。

それぞれがコメントしているが、異口同音しか言っていない。所詮、人間は表面上のことしか見れていない。そんな当たり前を見せつけられ、学ばされた。

終わってみると、やっぱり嫌な気分が残った。

なんとも後味の悪い。

最期に沖田さんの当時の写真が出た。

喚起するためのもの。

せっかく世間の記憶が風化したというのに。もっとも、昔の写真が出たところで、今の沖田さんを特定できるとは思えないし、この番組を見たからと言って、誰かの意識が変わるとも思えない。

それでも、警察、テレビ局、マスコミ。まだ関心を持っている人はいる。事件は終わらない。

僕はどうなりたいのだろう。いつもの自問自答。

ばれてしまったら、犯罪者のレッテルを張られ、刑務所を出た後も日に背を向けられない。その代り、この生活は終わる。沖田さんからは解放される。

ばれなければ一生このまま。

どっちがいいのか。今までの自分なら、変化を恐れ、嫌い、このままの日々を望んだだろう。

今までも考えてきた。今日も改めて深く考えた。いくら考えても答えはでない。もっとも、考えて、答えが出たところで僕にどうこうできるものでもない。

とりあえず、テレビを切った。

面白い番組があろうとなかろうと、そんな気分にはなれない。

沖田さんは真っ暗になった画面をまだ眺めたままでいる。


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