第三章 青年期事件編 ⑩
「難しい顔をして考え事?朝ご飯、できたわよ。」
そう言う笑顔は普通の女性にしか見えない。でも、沖田さんは普通ではない。
今日も今日が始まってしまった。
一時間ほどして。
今日の朝ご飯はエッグベネディクトというらしい。朝ご飯というよりブレックファースト。もちろん食べたことはない。テレビで朝食の女王だとかやっていたのを覚えているが、それがどういう料理なのかよく分からない。
沖田さんの家ではこういうシャレたものが普通に食卓に並んでいたのだろうか。昨日の話では父親が作らせていたと言っても納得はできる。だとしたとしても、食べるのと作るのでは話が違う。素人目に見ても、難しそうな料理。三回目の料理でそれを選択するだろうか。なんともチャレンジングな。
焼いたマフィンとベーコンその上にポーチドエッグそして、黄色いソース。そこそこ形にはなっている。テレビで見たことがあるやつ。
味もそこそこいけた。
ソースが見た目に反して酸味が効いてさっぱりしているので、全体としてそれほどくどくない。
食べたことがないので、それが料理として正解なのかどうかは分からないけど。
「美味しい?」
「うん」
普通に上達している。今や僕のスマートフォンもパソコンも沖田さんの所有物となっているので、それでレシピを調べたらなんでも作れる。
「こういうのは私が聞く前に感想を言うものじゃないかしら」
「どこのカップルだよ。」
「違うわよ。えっ?何、この状況でそんな風に思っていたの。」
「いやっ、そういう意味じゃなくて_。感想とか言わなきゃダメ?」
「当たり前よ。作り甲斐がないじゃない。」
本当に。
何がしたいのか分からない。沖田さんは楽しんでいるようにしか見えない。
ものの数分。
無事食べ終わった。
無事に。
もし食べられなかったら、監禁以上にペナルティが待っているかもしれない。沖田さんは拷問のようなことをしないと言っているけど、よくよく考えてみれば、監禁している時点で説得力がまるでない。
「それで、キャッシュカードの番号は」
沈黙
こちらをただじっと見つめている。
「12**」
「覚えた。」
沖田さんは今日も買い物へ出て行った。
僕はもう沖田さんに逆らえないということを悟ってしまった。それは僕が被監禁者だからというだけではない。今思い返すと、僕が監禁していた当時ですら、そうだった気がする。ことあるごとに報告相談をしては助言を求めていた。僕の情けない性格にも起因するのだろうが、いつでも泰然としている沖田さんを見るとつい、どうしても頼りたくなってしまう。
ようやく十時になろうという頃。
暇だ。
本くらいは読めるようにしてくれたが、もともとあった本は全部読破済みだし、沖田さんに言われて買ってきた本は難しくてよく分からないし、興味もわかない。
せめて、テレビくらい見れたらいいのに、リモコンに手は届かない。
とりあえず横になった。




