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誘拐から  作者: 高束奏多
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第三章 青年期事件編 ⑨

 ***


 今日も寝覚めは悪かった。これが何日続くのか。いずれは慣れてしまうのか。

 時刻はまだ六時前。

 昨晩は寝るのにずいぶん苦労した。楽な姿勢を見つけるのに数時間を要し、結局眠りについたのは一時近く。五時間ほどしか寝ていない割には、こんな時間だというのに目が開いてしまった。

 慣れない環境、緊張、恐怖に対して無意識化で生存本能がでたのか。決して低血圧などという平和な理由ではない。

 ドアから覗くと、沖田さんはまだ眠っていた。

 足音を立てないよう気を付けてトイレへ。まぁ水が流れるので、よっぽど眠りが深くない限り、この家の間取りで目を覚まさないのは無理だろう。

 「おはよう」

 沖田さんは当たり前のように挨拶をした。たったその四文字が、それだけで自然と背筋が伸びる。

 「おはよう」と返すだけにずいぶんと時間を取ってしまった。

 監禁以外は別に何かをされたというわけではない。それでも。

 微笑んだ後に、

 「今から、朝ご飯作るから、待っていてね。」

 平然と言い放った。当たり前のように。今までもこうしていて、これからもこの生活が続くかのように。

 そうか、それが恐怖の原因だ。

 この、およそ日常とは呼べない、現実離れした生活の中でも普通に生きている。そして、それを楽しんでいる。いくら、DVを受けていた家が嫌だからと言っても、それでもこの生活が楽しくあっていいものか。

 監禁する意味。

 昨日湧いた新たな疑問。

 ひょっとして、意味なんてないのではないのだろうか。

 僕の誘拐にも正直言って明確な動機はなかった。

 それと同じで沖田さんの監禁にも特に意味はないのかもしれない。あるいは楽しいから。それだけで監禁する理由としては十分なのかもしれない。

 沖田さんは監禁される生活にいつから慣れてしまっていただろうか。僕の記憶では三日目にはすでに普通にしていた気がする。明日には普通になっているなんて想像もできない。それが普通の感覚だろう。沖田さんだからこそ、そういう境遇にあったからこそ、あの生活に慣れることができた。そう思うと、三日目には沖田さんの中で何かが変わったのではなく、もともとそうなっていた。

 これは、少々乱暴な言葉だが、ぶっこわれていたといってもいいレベルじゃないだろうか。


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