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誘拐から  作者: 高束奏多
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第三章 青年期事件編 ⑥

「沖田さん。トイレに行きたいのですが。」

 「ダメ」

 断られてしまった。

 「昨日からずっとしていなくてそろそろ本気でやばいんですけど。」

 後ろ手のロープを外してくれた。片方の手は自由になった。そして、ペットボトルを渡された。

 「これじゃ零してしまうかもしれないし、ちゃんとトイレに行きたいなって。沖田さんにもそこは保証していたわけだし。」

 「その時は掃除してあげる。」

 そうじゃない。

 「思い出したわ。そのせいでお金が無くなってしまったの。」

 振り返ると、後ろの大きな袋に手を伸ばした。袋に収まらず長い棒のようなものがはみ出ている。

 「用意するからちょっと待っていて。」

 まず、電動ドリルを取り出した。

 「これ、高かったの。そして一度使ってみたかった。」

 ほくほく顔だ。

 「拷問?僕の身体をそれで繋ぐとか。」

 「違う」

 「ふつうに工事?」

 肯いた。

 まさかのDIY.。この状況で本格的にDIYを始めちゃうなんて思いもしなかった。何を作る気だ。それよりも僕の家を僕の許可なしに改築する気だ。

 今度はさっき目についたあの棒を取り出した。金属製のパイプのようなもの。長さ違いで三本と特殊な形のパイプ。

 「拷問?殴るのですか。」

 自由になった方の手を上げた。降伏のサイン。

 「違う。これも工事用。」

 「ですよね。」

 「「手を上げる」って言葉、よく考えると面白いわね。殴るのも手を上げるだし、降参するのも手を上げる。相反する立場なのに、両方手を上げる、滑稽ね。」

 なんかツボにはいっている。それが面白いのかどうかはともかく。

 落ち着いたようだ。

 他にもネジやら何やらいろいろな道具が出てきた。

 本格的な作業というか工事が始まった。

 およそ三十分。

尿意も忘れ、思わず見入ってしまった。

 なんということでしょう。部屋からトイレまで壁沿いに鉄パイプのレールができている。最後に新しく買ってきた手錠を僕の空いた手とそのパイプとを繋いだ。もともと繋いであった手錠は外してくれた。ドアが閉まらなくなると思ったが、そこは沖田さん。ドアのその部分を切断し、隙間はあるものの、閉まるようにはなった。いつのまに長さまで測っていたのだろうか。というか、思っていたよりずっと、大胆で不可逆的な工事だった。管理人に見られるとまずすぎる。

 本人は満足そうにしている。

 「これでトイレに行けるでしょ。」

 そう言われて、思い出したかのようにトイレへ走った。

 金属同士のこすれる音が響いた。

 道中、イライラ棒という名前だったろうか。リングで線路を通し、触れると静電気が走る、あのゲームを思い出した。これがもしそれだったら、何回もビリビリしてしまっている。


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