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誘拐から  作者: 高束奏多
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第三章 青年期事件編 ⑤

 ***


 遅い。

 沖田さんが家を出てからかなりの時間がたっている。窓からは茜色の光が差し込んでいる。

 おなかが空いた。それ以上にトイレが限界だ。いっそのこと漏らしてしまえば、どれだけ楽になれるだろう。誰も見ていない。しかし、自分の家であることと、いずれ沖田さんに見られてしまうということを思えば、僕のわずかなプライドがそれを許してくれなかった。

 もしかすると、このまま帰ってこないのでは。それは僕にとっていいことなのか悪いことなのかはさておき、そんな不信感が募っていく。

 僕を監禁するだけ監禁して放置。そのまま家へ帰るもよし。

 このままでは餓死してしまう。これも一つの復讐の形ということか。

 「ただいま」

 物音と共に沖田さんの声が聞こえた。安堵と緊張。一日目からこんなんで精神が持つのだろうか。

 かなりの量の荷物と一緒に部屋にやってきた。

 「改めてこの部屋を見ると懐かしいわね。初めて監禁された日もこの部屋だった。リビングの大きな机に繋がれていた。でも、この椅子とだと部屋に対してしっくりくるわね。」

 まず箱を取り出した。中から黒に三本の白い線の入ったスニーカーを取り出した。そういえば、沖田さんの履けそうな靴はなかったな。まさか外出するなんて思ってもみなかったから。

 「ハイヒールも履いてみたかったのだけれど、そもそも歩くこと自体久しぶりだし、最初はスニーカーにしたの。慣れないことをするとすごく疲れたわ。それで、私に似合うかしら。」

 「いいんじゃないかな。」

 「適当。本当に思ってる?」

 「_うん。」

 「まぁいいわ。どうせ先生に女の子のファッションが分かるとは思えないし。」

 ちょくちょく皮肉や罵倒を入れてくる。確かに分からないけど。

 「あと、食材。そうそうお金なくなったから、キャッシュカードの番号教えて。」

 「断る」

 「無理。飢え死にしちゃうわ。」

 「沖田さんは家に帰れば餓死しないだろ。」

 「先生が死んじゃうわ。」

 心配された。言葉が見つからない。その通りだけど。それでも、沖田さんに面倒を見てもらう筋合いはない。

 それに、財布にはまだ十分にお金が入っていたはずなのに、どれだけ使ったんだよ。文句を言いたくなってしまう。まだ、後ろに大きな袋があるみたいだし。それよりも、もう限界だ。


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