第三章 青年期事件編 ⑤
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遅い。
沖田さんが家を出てからかなりの時間がたっている。窓からは茜色の光が差し込んでいる。
おなかが空いた。それ以上にトイレが限界だ。いっそのこと漏らしてしまえば、どれだけ楽になれるだろう。誰も見ていない。しかし、自分の家であることと、いずれ沖田さんに見られてしまうということを思えば、僕のわずかなプライドがそれを許してくれなかった。
もしかすると、このまま帰ってこないのでは。それは僕にとっていいことなのか悪いことなのかはさておき、そんな不信感が募っていく。
僕を監禁するだけ監禁して放置。そのまま家へ帰るもよし。
このままでは餓死してしまう。これも一つの復讐の形ということか。
「ただいま」
物音と共に沖田さんの声が聞こえた。安堵と緊張。一日目からこんなんで精神が持つのだろうか。
かなりの量の荷物と一緒に部屋にやってきた。
「改めてこの部屋を見ると懐かしいわね。初めて監禁された日もこの部屋だった。リビングの大きな机に繋がれていた。でも、この椅子とだと部屋に対してしっくりくるわね。」
まず箱を取り出した。中から黒に三本の白い線の入ったスニーカーを取り出した。そういえば、沖田さんの履けそうな靴はなかったな。まさか外出するなんて思ってもみなかったから。
「ハイヒールも履いてみたかったのだけれど、そもそも歩くこと自体久しぶりだし、最初はスニーカーにしたの。慣れないことをするとすごく疲れたわ。それで、私に似合うかしら。」
「いいんじゃないかな。」
「適当。本当に思ってる?」
「_うん。」
「まぁいいわ。どうせ先生に女の子のファッションが分かるとは思えないし。」
ちょくちょく皮肉や罵倒を入れてくる。確かに分からないけど。
「あと、食材。そうそうお金なくなったから、キャッシュカードの番号教えて。」
「断る」
「無理。飢え死にしちゃうわ。」
「沖田さんは家に帰れば餓死しないだろ。」
「先生が死んじゃうわ。」
心配された。言葉が見つからない。その通りだけど。それでも、沖田さんに面倒を見てもらう筋合いはない。
それに、財布にはまだ十分にお金が入っていたはずなのに、どれだけ使ったんだよ。文句を言いたくなってしまう。まだ、後ろに大きな袋があるみたいだし。それよりも、もう限界だ。




