第三章 青年期事件編 ①
いつの間に眠っていたのだろうか。ずいぶん長い間夢を見ていたような気もするし、一瞬だったような気もする。どのくらいの間眠っていたのだろう。
不自然な体勢で寝ていたせいで、首を寝違えている。ここまで寝覚めの悪い朝は久しぶりだ。
半ば意識が覚醒してきたせいで、僕の置かれている状況を理解してしまった。
正確に言うなら眠ってはいたが、寝てはいない。
座っている。
座らされている?
見渡すと、そこはあまりにも無機質で無表情な部屋。
目覚めたとき、僕のベッドじゃなかったから、どこなのかわからなかったが、間違いなく僕の部屋だ。
よく見ると、僕が座っているこの椅子もリビングにある毎日使っていた椅子だ。
僕の部屋で間違いない。
そして、もう一つ印象的でよく知っているもの。
僕の手と椅子とを繋ぐ二つの銀色の輪。
かつて、僕が沖田さんをこの家に繋ぎとめるために使っていたそれで、今度は僕が繋ぎとめられている。
それが本物であるということは毎日使っていたのだから、よく知っている。力ずくで抜け出そうなどと微塵も思わない。手首が痛くなってそれで終わりだ。
おまけに、もう片方の手と足はロープで丁寧に結わえつけられている。
前かがみになれば、少しだけ立ち上がることくらいはできそうだが、だからといってそれで何かができそうにはない。それどころか、体勢を崩し、転んでしまえば、受け身も取れない。考えるだけで目も当てられない。
季節は三月。
冷たい空気がさらに意識を覚ましていく。
眠っていたのが一日だけなら、三月十日のはず。時間は分からない。
暖房のないこの部屋はよく冷える。加えて、手首に巻きついた金属が身体を冷やす。物理的にだけでなく、心にも冷たい緊張感を運んでくる。
くしゃみをして背筋が凍った。
決して寒かったから、というだけではない。
それはテストの点数が想像していたより、はるかに低かった時みたいな、やってしまったあとで後悔をしてしまうあの感覚に似ている。
金属のこすれる音。
聞き慣れない音がした。いつの間にこの部屋の扉に鍵が取り付けられたのだろう。それよりも、
「おはよう。先生。起きたみたいね。」
開かれたドアの前には沖田さんが立っていた。
無表情な顔で、たんたんと挨拶をした。僕の記憶の限り沖田さんの方から話しかけてきたのは初めてだと思う。




