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誘拐から  作者: 高束奏多
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第二章 少年期解決編 ⑮

 ***


 6月14日(水)

 いつも通り出勤した。

いい加減、いつも通りのいつもが何かわからなくなってきたころだが、それでも、いつも通り出勤した。

 何件か保護者からの電話があったらしい。「自習ばかりで、先生は何をやっているのか」と。

 二日目にして保護者に不審がられている。釈明をしなければならない。

 現状、沖田さんの誘拐事件については保護者に対して説明することはできない。人質の安全のため、警察と記者クラブの間での報道協定が結ばれている間、報道はされない。それにあたり、どこかへ情報が洩れないようにすることも重要だそうだ。保護者に対しては、「建物の設備修繕に向けて、生徒のための対応に追われていた」ということにするらしい。

 今日の朝の話し合いでそのことについての先生間での認識の統一がされた。

 本来であれば、このストレスでしかないお詫びのプリントづくりも今日だけは息抜きのように感じた。

 今日からは警察の対応などはない。いつまでそれが続くかはわからないが。

久しぶりに、普通に授業をする毎日が始まる。

実際、四日前の金曜日までは普通に先生として授業をやっていたわけだから、それほど久しぶりということはない。それでも、長かったここ二、三日を思えばそう感じるのも無理はない。


 ***


 数日後_6月15日(木)

 「くそっ」

 男の怒号と壁を拳で叩く音が署内会議室、沖田代議士令嬢誘拐事件捜査本部に響き渡った。

 「まだ見つからないのか」

 祭屋総義はあからさまに苛立っていた。

 苛立つのも無理はない。

 事件発覚の翌日、犯人、宇都宮壮は逮捕された。にもかかわらず、それから三日たっても、人質、沖田ネルが発見されない。

 このままでは被疑者逮捕にもかかわらず、餓死により被害者死亡というゆゆしき結果も見えてくる。

 スピード逮捕により、捜査本部の誰もが事件解決は時間の問題だと思っていた。しかし、それ以来全くの進展がない。

 星を挙げた碓井も打つ手なしの様子で、当初の勢いはなくなっていた。最近は舌鋒も丸くなっている。碓井個人は担任佐藤俊夫共犯説を唱えていたが、それも言わなくなっていた。

あれからの捜査で宇都宮壮のスマートフォンの履歴、数日の交友関係を徹底的に洗ったが、これというようなものは見つからなかった。証拠という点からもプロファイリング等による心理的見地からも、洗えば洗うほどに単独犯でしかありえないという見方になっていった。

防犯カメラやNシステムにも不審人物、不審車はマークされなかった。宇都宮壮が連れ去る様子や遠出する様子も発見できなかった。もともと都心部とは違い、防犯カメラやNシステム自体が少ないせいもある。まだ近くに監禁されているかもしれないし、Nシステムの目を掻い潜って遠くへ連れ去った可能性もある。あるいはすでに、ということもありうる。

つまり、わからない。沖田ネルの居場所が全く掴めない。

捜査は難航、行き詰まり、完全にお手上げ状態。

「祭屋、碓井、尾藤と江田も来い。」

前方中央より声がかかった。

丹羽光道警視正。俺たちの上司にして捜査本部の責任者。

「お呼びでしょうか。」

「あぁ、これより本事案を公開捜査に切り替える。」

俺たちを呼んだ声で会議室は静まっていた。他の捜査員にも聞こえたらしく、一気にざわつき始めた。

「お言葉ですか、人質の安全が_」

「そんなことは分かっている。このまま続けてもじり貧だろう。宇都宮壮は単独犯だ。つまり、犯人の全員逮捕、よって報道協定も解除する。このことを今日この後六時から、記者クラブで発表する。祭屋碓井は沖田家へ行き承諾を得てこい。尾藤は学校への報告。その後、江田は記者クラブへの通達。以上解散。」

会議室は一気にあわただしくなった。

確かに、公開捜査にすれば情報量は増えるが。もしも、宇都宮壮が単独犯ではなかったら。公開捜査はハイリスクノーマルリターンだ。

俺たちにとっては諸刃の剣であり、沖田ネルにとってはダモクレスの剣、つまり、刺し

違える覚悟が必要になる。



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