第一章 少年期事件編 ③
6月2日(金)
毎朝、決まって七時に起きる。
今日もいつも通り七時に、自分で起きた。いつも通りの朝だ。起きたころには朝食が出来上がっている。朝食が出来上がっているというのは、お母さんがいる家庭ではごくごく普通のことかもしれない。しかし、牛乳とオレンジジュースと二つのグラスが用意されているというのは一般家庭においては当たり前ではないだろう。ホテルではあるまいし。私の嗜好も知っているはずである。しかし、お父さんのこだわりで朝と言わず全ての食事は美しく飾られ並べられる。別に誰に見せるわけでもないにもかかわらず、お母さんにとってはそれなりの重労働であるはずだが、そこは十年もやっていれば慣れたるのかもしれない。
クロワッサンをかじり、(ごちそうさま)と心の中で呟いてから、一言の会話すらなく部屋に戻った。
おとなしく、寡黙なのは学校に限ったことではない。別に友達がいないからおとなしいのではない。おとなしいから友達がいないというわけでもないが。家でも会話なんてほとんどしたことがない。
私の通う小学校は制服指定である。小学校にしては珍しいかもしれないが、私立ともなればそんなものだろう。大学までつながっている学校のため、小学校というよりは小等部という感じである。白い長袖のカッターシャツに紺色のワンピースをきれいに来て玄関を出た。
今日も私はいつものごとく誰とも関わることなどなく、教室で本を読んでいた。
誕生日を、十一歳を、あと三日に控えていた。
そして、その日、私は家に帰ることはなかった。
帰ることはできなかった。