第二章 少年期解決編 ⑤
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「碓井。どう思った」
「そうですね。佐藤先生_ですか。ちょっと緊張しすぎていたように思いますけど。あんなものですかね」
「まぁ、まだ若いからな。それにたいそうな事件で、被害者は自分の受け持つクラスの生徒。警察を前にしたら、緊張するだろう。他には」
「特には。まぁ沖田家で話を聞いてから、追い追いって感じですかね。」
本当は正午ごろに沖田家に行く予定だったけど、学校での聴取が思っているよりも早く終わったおかげで、かなりの時間を持て余した。
「暑いな」
時刻は十時を過ぎたころ。日中にはまだまだ程遠いというのに嫌気がさす。
「そんなんで、昼どころか夏はどうするんですか」
やっと車についた。さすがに、車中が熱気でこもる煉獄にはまだ早い。窓を開けると風が丁度心地いい。
別に厳密な時間にアポを取っているというわけではない。とりあえずコンビニによってから、沖田家へ走らせた。
前回来たときは近くに適当に路駐したが、今回はやめた。パーキングを見つけるのに、苦労した。
実際見つけるのに苦労したわけではない。距離を考えると、さっきよりも暑くなっているだろう道を歩くのを想像してのことだ。
ドアに手を掛けた時、スマートフォンが光った。あらかじめ連絡しておいた他の捜査員もそろそろつく。
やっとメインというと、不謹慎極まりないが、ここからが本番だ。
住宅街を進むたびに、より大きな建造物が目立つようになる。
俺の目から見れば、逆に似たり寄ったりに見えてしまう建造物。そのまま、ドラマのセットとして使えそうなほどであり、洋館というと大げさだが、やはり、本番といえるだけの形をしていた。三日ぶりのたたずまいは俺たちを歓迎しているようには見えない。
「祭屋警部補、お疲れ様です。」
後ろから機材と共に四人の男達がやってきた。もちろん同僚。
三日ぶり二度目の呼び鈴。
今日も出ないということはない。押すと、すぐに男の返事が返ってきた。昨日聞いた沖田陸の声だ。
やがて、ドアが開いた。
そして、驚いた。絢爛な内装だったからではない。むしろ、家具が少なく落ち着いている印象を与える。片づいてさえいれば。廊下の半分はごみ袋やらなんやらが並べられていた。
「すみません。散らかっていて」
そう苦笑いする沖田陸は、被害者家族とは思えないほど爽やかでイケメンだった。
「娘の誘拐以来、妻は家事とかあんまりできなくて。私もいろいろと忙しい身ですので。」
ショッキングな事件のせいで、日常が立ち行かなくなるのはよくあることだ。もっとひどい家も何件も見てきた。それと比べると、屋敷のような家だけに認知的不協和が大きく感じられるが。
リビングに通された。ソファーには女性が座っていた。想像はつく。
「妻の沖田宏子です」
それだけ言うと、スカートの裾をふくらはぎの裏で直しながら座りなおした。
妻が家事やっていない発言からももっと憔悴しているのかと思っていたが、化粧もファッションもとても魅力的な女性に見えた。実際、化粧の下はそうではないのかもしれないが、そこは女性の秘密、今でなくても関係ないことだ。
「きれいな奥さんですね。」
そう思ったのも束の間、碓井が切り出した。社交辞令なのか、デリカシーがないのか、はたまた天然なのか。碓井はいい意味でも悪い意味でも素直な奴だ。おそらく、後者のどちらかだろう。
「ありがとうございます。」
沖田宏子は無反応だったが、沖田陸は誇らしそうに答えた。
今回は良かったみたいだが、碓井の発言にはひやりとさせられることが以前にもあった。
本題と関係のないところでドキリとしてしまった。
沖田陸に促されるまま、二人とは向かいのソファーに腰を下ろした。他の刑事もそれぞれダイニングテーブルの椅子の腰かけながら作業を始めた。
沖田陸がお茶を持って戻ってきた。冷たい緑茶が心地いい。同じコップが八個あるというだけでそれなりの来客が日頃からあるのだということをうかがい知ることができる。
「では、さっそく。昨日はあまり話を伺うことができませんでしたので、誘拐の発覚からお願いします。」
沖田陸は沖田宏子の顔を一瞥した。それから話すのを任せるのは無理だと悟って、話し始めた。




