第一章 少年期事件編 ⑱
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6月9日(金)
誘拐してから今日でちょうど一週間になる。この二、三日で僕たちの監禁生活に大きな変化はなった。
人間の慣れとは怖いもので、あれだけびくびくしながら過ごしてきた非日常が今では当たり前になりつつある。
二日前あたり、つまり七日水曜日あたりからは、沖田さんの欠席について、聞いてくる生徒が出だした。
体調不良らしい旨を伝えたが、生徒の方は別に興味があったわけではないらしい。そのあとは、沖田さんについて聞かれることはなかった。それに引き替え、僕は正直な所、気になって仕方がなかった。当然だ。月曜日の連絡帳、沖田家にも相当な事情があり、問題があるらしい。普通、娘がいなくなって、全くの音沙汰なしなら、心配するどころの騒ぎではない。それを隠すだけのことが、沖田家では起きている。
あの連絡帳から今日で五日。五日連続の欠席。誘拐犯としてではない。担任という立ち位置として心配するのはしごく真っ当なこと。保護者宅に電話をするのも妥当な期間だろう。
電話をする前に思考。
おそらく、沖田家には隠さなくてはいけない事情があるのだ。連絡帳を何度見返しても、当たり障りのないことしか書かれていない。直接、連絡帳を受け取っていれば、その態度から察したり、質問したりできた_無理だろうな。驚いてそれどころではなかっただろう。むしろ、僕の方がぼろを出していたかもしれない。連絡帳を受け取った人がわかれば、何かわかるかもしれないが。
もう少し、考えたい。電話は昼休みにしよう。
金曜日の午前中のカリキュラムは副教科が多い。二限目が図工、四限目が体育だ。これは二限なら中休みまで延長できるという配慮と、給食前におなかをすかせるためだろう。偶数時間に副教科はよく見られる。学生の頃は、副教科というと割と楽で暇なものだったが、立場が変わると意外とそんなことはない。準備もしなければならないし、専門外にもかかわらず、全員分の作品を見て、アドバイスしたりしないといけない。何を言いたいかというと、あまり、考えることができないまま、昼休みを迎えてしまった。
給食もほどほどに、後片付けは生徒に任せて、職員室へ向かう。高学年にもなると、このくらいの融通は利くのでありがたい。
グラウンドへ駆けていく少年たちを尻目に、その足を速める。
だいたい話す筋道は頭の中で固まった。僕は担任という立場だから、おかしなことはない。堂々としていれば。




