第一章 少年期事件編 ⑰
五日目にして、三回目の晩ご飯。
手錠をテーブルへと繋ぎかえるのにもずいぶん慣れた。一生人に言うことはないであろう特技だ。
二日目の朝のごとくテーブルに繋いでいる場合、抜け出すことは非常に容易だが、この場合の役割はあくまで時間稼ぎだ。流石に、僕の目の前で抜け出そうとしても、捕まえるのは容易だ。そのくらい沖田さんも百も承知なのでやろうとはしない。
無言のままの食卓もそろそろ終わりという頃、僕は冷蔵庫へ向かった。
コンビニで買った、イチゴの乗ったショートケーキをテーブルに置いた。三百円もしない安いものだ。
「今朝、名簿を見ていたら、昨日が誕生日みたいだったから。」
誕生日だからといって、こんなことをする義理はない。けれど、引くに引けなくなってしまったという理由でいつまでもこんなことを続けてしまっている。せめてもの罪滅ぼしのようなもの。こんなことではなんの罪滅ぼしにもならないことは分かりきってはいるが、自分のためにそうしたかった。罪悪感を少しでも紛らわせるために。蝋燭を立てたが、電気を消すということはしなかった。電気を消してしまえば、今以上の恐怖を与えてしまう。監禁者と被監禁者というこの立ち位置はどれだけ時が過ぎても変わることはない。食べ終わったごみの片づけをしていると、後ろで「ありがとう」と聞こえたのは気のせいに違いない。
***
時は遡り、
場所も変わり、
6月2日(金)
沖田家
時刻はすでに7時を回っていた。母・沖田宏子はネルが誘拐されていることなど、知る由もなく、帰りを待ち続けていた。陸に電話したが、「ほっておけばいい」とあまりも素っ気ない返事に苛立っていた。
そうこうしているうちに、陸が帰ってきた。
この時時計の針は8時少し前を指していた。
宏子が学校に電話をしようとした時だった。
着信音_。
あまりのタイミングの良さに動揺してしまった。
ツーコール_
陸に電話に出てもらうように頼んだ。やや嫌そうな顔をしたが、素直に電話に出てくれた。
「娘は預かっている」
無言のままスピーカーにする。
「分かっているとは思うが、警察にも学校にも知らせるな。また、電話する。」
それだけ言うと電話は切れた。
ため息をついて、ソファーに腰を下ろした。いかにも高級そうな皮のソファーは重みに抗えず沈み込んだ。
「面倒なことになったな」
大方、身代金が目的だろう。ただ_、
沈痛な面持ちに比例するように、あたりの暗さも増していった。




