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誘拐から  作者: 高束奏多
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第一章 少年期事件編 ⑯

***


 6月6日(火)

 今日は何となく、いつもよりも少し早く出勤した。ほんの30分早いだけだが、道はいつもよりは空いているかと予想したけど、そんなことはなかった。ほぼいつも通りの、交通状況。決して、混んでいるというわけではないが、どの時間でも出勤する人はたくさんいるのだと思い知る。

 職員室にはまだ誰もいなかった。

引き返し、保管場所から鍵を持ってきて入った。こうして入るのはずいぶんと久しぶりだった。

 椅子に座って、少し落ち着いてから、生徒の名簿を取り出した。

 ア行_

 太田、大野・・・

 見つけた。

 特に、何かを調べたくてというわけではなかったが、この状況だ。確認しといて損はないだろう。

 「沖田ネルですか」

 びっくりした。まったく気がつかなかった。やましいものではないが、あまり、名簿を見ているところを見られたくはなかった。

 「宇都宮先生もご存知ですか。」

 「そりゃ。あの沖田陸の娘ですからね。流石に知っていますよ。彼女がどうかしたのですか」

 ギクッとしたが、大丈夫。一応対策はしておいた。

 「昨日欠席していまして。連絡帳によると体調不良みたいなのですが、それで、病歴とかはなかったかなと思いまして。」

 不自然ではないはず。

 「それは、心配ですね」

 そう言うと、興味が去ったようで、席に座って、スマートフォンをいじりだした。一安心。

 他の先生も出勤しだした。

 ドッヂボールや大縄跳びなど外で生徒のはしゃぐ声が聞こえだした。子供が外で遊ぶものは十年前も変わらないなと懐かしく思い、物思いに耽ってしまった。毎日聞こえていたはずなのに、特殊で劇的な生活のせいで新鮮に感じるものが多い。

 その日のホームルームも当然、一人少なかったが、誰も気に留める様子はない。二日連続で休んでも、この程度なのか。


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