第一章 少年期事件編 ⑮
職員室に戻った時、机の上に連絡帳がおかれていた。
意外に知られていないことなのだが、基本的に小学校へは緊急時を除いて電話をしてはいけないことになっている。欠席の連絡も例にもれず、電話ではなく、連絡帳を介さなければならない。これは、朝は先生も忙しかったりして電話に出られなかったりということや、インフルエンザ等が流行したときには、一斉に電話がかかってきてその対応が大変だったりするという配慮に基づくものである。スマートフォンが普及した今となっても、こんな前時代的な方式が用いられている。
こんな時に厄介ごとをと思ったが、連絡帳の名前を見て驚愕した。
沖田さんのものだった。
~いつもお世話になっております。沖田ネルですが、体調不良のため、しばらくの間、お休みさせていただきます。よろしくお願いします。~
こんなことがあるだろうか。自分の娘がいなくなったというのに、それを体調不良で済ませるなんて。何か隠している。なぜ、隠すのだろう。沖田ネルが自宅に電話したとも思えない。ただ、これで職員室で一切の追及がなかった理由は判明した。僕のあずかり知らぬところで何かが起こっている。
朝の胸やけは治まっていたが、新たに胸騒ぎがした。雲行きが怪しくなっていくのが分かった。
その日、家に帰ったのは9時前だった。別に事件という大きな出来事がなかったとしても、帰るのはだいたいこんな時間になる。ブラック体質。生徒を帰した後も、なんだかんだ仕事は山積みだ。もっとも、今日はその山を小さくすることができなかったのは言うまでもない。
晩ご飯とは言っても、コンビニ弁当、それとお惣菜を食べながら、今朝の連絡帳の話を沖田さんにした。
「ふーん」
とあまり興味なさそうな声を出していたが、食べる手は止まっていた。
一応、興味は持っているのだろうか。何を考えているのかは分からないけれど。
「先生」
「どうした」
「_何でもない」
沈黙
まだ、十歳なのだし、親にも会いたいだろうな。本当、なぜこんなことをしてしまったのだろう。




