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誘拐から  作者: 高束奏多
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第一章 少年期事件編 ⑭

理解ができなかった。

 まだ、泳がされるのだろうか。

 それとも、本当にばれていないのだろうか。だとしたら、沖田さんの親は何をしている。なぜ、通報しない。

 すでに、周りの先生は誰もこちらを見ていなかった。さっきまで、敵だと思ったのが申し訳ないくらい、私には無関心にデスクワークに取り組んでいる。

 職員朝会が始まった。会議での確認や今週の予定など、取るに足りない内容ばかりだった。一向に沖田さんについて触れられないまま、職員朝会は終わった。心の中で靄のようなものができだした。

 「何か、最近、変わったこととかありませんでしたか」

 「話、聞いてなかったんですか。特にないと思いますけど。それとも、俺について聞いています?」

 そう、宇都宮先生は屈託のない表情で冗談めかして言った。その朗らかな返答ぶりは、何の嘘や隠し事も感じさせなかった。隣に座る宇都宮先生とはたまに呑みにいったりもするが、とても、そんな芝居が自然にできる人には見えない。心の中の靄はその濃度を確実に増していく。

 時刻は八時二十分。

 朝のホームルームが始まるのは八時半。つまり、あと十分。

先生たちは三々五々に職員室を後にしていく。僕も五年一組へ、沖田さんがかつていた教室へ向かった。

 廊下をゆっくりと歩き、時計の針を細目に確認する。チャイムの音を聞きながら、五年一組の教室のドアを開けた。

 朝の職員室での出来事を思い出し、ひょっとしたら沖田さんが普通に登校している_とは流石に思わなかった。

 各々席についている。当然ながら、空席が一つ。確認するまでもない。

 生徒たちは隣や前後で話しているが、特段、沖田さんについて気にする声は聞こえてこない。

 出席確認

 「沖田さんについて何か聞いている人はいますか」

 沈黙。

 もちろん、答えを期待しての問いではない。むしろ、「誘拐されました。先生に」

 などと言われようものなら、_想像するだけで恐ろしい。

 ただの、形式上の問いだ。

いずれ、警察は生徒にも事情聴取をするかもしれない。何も知らないというポーズをとっておかなくてはいけない。

 さて、とりあえずは保護者への電話だ。この時点では、当然ながら僕は沖田さんについて無断欠席しているという認識をしていなくてはならない。心配をしすぎてもいけない。ただ、保護者に電話するだけだ。今まで何回もしたことがある電話ではあるが、まるで、誘拐犯が身代金を要求するための電話と同じ構図を取っていた。

 ホームルームを早々に切り上げ、職員室へと引き返した。

 およそ二カ月とはいえ、今まで、沖田さんは無遅刻無欠席だった。生徒たちはまるで気にも留めていない様子だったが、何かしら思うことはあるのだろうか。きっと、休んだことに気付いていない生徒もいるはずだ。ほとんど会話をしたことがない生徒が一日休んだ程度、所詮他人事でしかないのだ。


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