第一章 少年期事件編 ⑬
職員室の前で深呼吸。
ここまでで周りがざわついていたりというようなことは感じられなかった。その、いつも通りの光景が、より一層気持ち悪さを押し上げていた。
中に入ったら、沖田さんについて聞かれる。それが億劫だったので、敢えて、ギリギリの時間を狙って出勤した。
職員室のドアを開けようとした時、後ろから肩をたたかれた。動揺して、すぐに振り返った。鬼のような形相をしていたのかもしてない。
「おはようございます。佐藤先生。」
足立先生はきょとんとした顔をしながら、挨拶をして、何事もなかったかのように、職員室へ入っていった。
足立先生を見送った後、僕も職員室に入った。席に座った時、石田先生が近づいてきた。石田先生は主幹という役職で校長先生や教頭先生をサポートするなど幅広い仕事をしている先生だ。石田先生は凛々しい顔に黒い筋肉をたくましくまとっている。学生時代はずっと野球をやっていたらしい。正直言って苦手なタイプだ。このタイミングで近づいてくるということはあの件しかない。心の準備をドアの前でしていた時、足立先生にさえぎられてしまったため、まだ準備できていない。なんて答えようか_。
「佐藤先生」
「はい」
食い気味で答えてしまった返事は思いのほか大きな声だった。ほかの先生たちがこちらを見ている。完全に注目を浴びてしまった。頭が白くなりかけていた時、
「顔色良くないですよ。何かあったのですか」
身を案じられてしまった。
沖田さんについて聞かれるものだと思っていたのに。いや、これはすべてを知ったうえで、説得するための枕詞にすぎないのかもしれない。そう思うと、僕を見ているほかの先生もすべて敵に見えてきた。事前に情報を共有したうえで、石田先生が代表して話に来たのだ。確かに、事件が事件だけに、僕一人の責任では済まされない。学校全体のブランドにかかわってくる。すぐに、マスコミの餌食となり、謝罪会見を監督責任として、校長先生たちがすることになるだろう。そう考えると、いきなり警察沙汰にするのではなく、あらかじめ、身内で対処・処分の方針を決めておかなければならない。この三日間、僕に連絡が来なかったのも納得できる。初めから、ばれていたのだ。悪いことはできないな。もう言い逃れることはできない。諦めよう。とりあえず、体調に関しては、適当に答えておこう。
「大丈夫です。」
「そうか。若いんだから、体調には気をつけなさい。あと、それを生徒に心配はさせるなよ。」
なんとも、大人としても立派で、先生としても鑑のような忠告をして立ち去って行った。




