第一章 少年期事件編 ⑪
それ以降また、会話のないまま、長い長い時間がたった。
5時を告げる放送音が聞こえてきた。
自分のおなかから音が聞こえてきた。
いつもは辛気臭くて、嫌いだったけれど、不思議と今はしっくりくる。
いつもは胃酸が出て、嫌いだったけれど、不思議と今はしっくりくる。
あのあとのことはよく覚えていない。でも、泣いたおかげで少しだけ、ほんの少しだけ、すっきりとした気分になれた。
視線をやると、先生と目が合った。
「晩ご飯どうしようか」
そういえば、先生も昼食をとっていなかった。先生という立場なのに、監禁者という立場なのに、晩ご飯という小さなことの選択を生徒であり、被監禁者である私に尋ねてきた。
「何でもいい」
「何でもって?」
「家にあるもので」
「何にもない」
そう言うと、冷蔵庫の中を写真にとって、スマートフォンの画面を見せてきた。
そこには、飲み物と調味料くらいのものしかなく、食べられそうなものをおよそなかった。
男性の一人暮らしってこんなものなのだろうか。
「カップ麺は?」
「昨日食べきった」
「昨日手錠を買いに行った時や、朝食をコンビニに買いに行ったときに、買わなかったの?」
「そのことで頭がいっぱいで」
そんな風に、あまりにも情けなさそうに答えるので、思わず、ため息が出た。
「コンビニで買ってきて」
そう、にべも無く伝えると、黙って家を出て行った。
十分もたたずに帰ってきた。
良く考えるとコンビニのお弁当を食べるのは初めてだった。レンジで温めただけで、とても味気のないものだったが、味は悪くなかった。お父さんがそういうものを嫌っていたせいで家ではコンビニに限らず、スーパーなどの出来合いの総菜が食卓に並ぶことはなかった。お母さんの手作りがたったの三日で懐かしくなったが、普通というか、家とは違う環境は興味深かった。
そうこうしているうちに、ここでのルールのようなものができていた。
・外出は絶対禁止。(もっとも一日中手錠で繋がれているため、そもそも不可能である。)
・食事は三食分、先生が買ってくる。仕事がある日は前日に朝食昼食を買っておき、仕事帰りにまた夕食と翌日の朝食昼食を買って帰る。
・トイレに行くときは、その都度許可を取り、用を足す。先生が長時間外出する時はトイレの近くの金具に繋ぎかえる。その日のうちに買いに行ったワイヤーを使って最低限トイレまでは自力で行くことができるが長さで調節した。ワイヤーを切れるような道具のところまで行けるほどの長さはない。
・シャワーは就寝前。タオルと着替えも浴槽に持ち込んで浴びる。これは私がお願いした。先生が女子小学生の服を買うのは不自然という理由から、着替えは先生の服を着ることになった。大きいしダサいけど別に誰に見られるでもないので、そこは目をつむった。
・手錠で繋がれている間は比較的自由である。テレビを見たり、本を用意してくれたり。
・寝る時は、床に近い位置に繋ぎかえる。流石に手を挙げた状態で寝るなんて肉体的拷問でしかない。そこのところは配慮してくれた。
誘拐から三日目、私と先生の奇妙な監禁




