第一章 少年期事件編 ①
第一章 少年期事件編
僕こと佐藤俊夫が初めての赴任先としてこの小学校にきて、かれこれ三年がたつが、沖田ネルのような少女を受け持つのは初めてのことだった。似たような生徒こそ何人も見てきたが、その性格が沖田さんほどに顕著で、ふさわしい子はかつていなかった。例えば、スポーツ選手といえば負けず嫌いだったり、末っ子は甘えん坊だったりというイメージがある。同様に、沖田ネルという人物を知ってしまえば、僕なんかは、あの性格の代表格は沖田さんのものとして一生認識するだろう。
沖田さんのクラスの中での印象はおとなしい子、もっと言えば地味な子だ。それは生徒からも教師からも同様である。昨年度、沖田さんの担任だった先生に彼女について聞いてみたことがあるが、想像通りの答えしか返ってこなかった。つまり、何も情報は得られなかった。
六月にもなると、そういう存在として、地位を確立していたために、特に気にも留めなくなったらしい。
先生としてそれはどうなのだと苦言を呈したくはなったものの、このご時世、一生徒に取り立てて深くかかわるものではない。PTAや社会が怖いので致し方ないことなのかもしれない。
それでも僕は、気付いたら沖田さんを目で追っているときがある。
教室ではいつも一人で本を読んでいた。誰かと話しているということはほとんどない。もちろん全く話さないということはない。挨拶をされれば、挨拶は返す。授業中、あてれば、ちゃんと答える。ただ、特定のだれか友達と仲良くしているところは誰も見たことないだろうし、そういった人がいるという噂もおよそ耳にしない。
おとなしいからといって、それだけであり、決して目立たないということではない。むしろ、何かと注目は浴びやすい方である。だからこそ、目で追っているのかもしれない。いや、これは逆で、僕が目で追っているから、目立っていると勘違いしているのかもしれないが、やはり、客観的に見ても目立っている。