錆びたシャベルを武器に
「ハァ、ハァ、ハァ…」
1時間、歩いたり走ったりを繰り返し、殆ど足を止めずに、お母さんの勤めている会社に辿り着いた。その間、何人ものゾンビと出くわし襲われそうになったけど、何とか噛まれずにここまで来た。
「もう!お母さんの会社遠いよ!バスが走ってないから徒歩で来るしかないじゃん!」
普段ならこんな距離、歩いたり走ったりなんてしない。でも、普段通りにバスが走ってるわけもなく。バスどころか、車すらろくに走れないほどに、車道には乗り捨てられた車が幾つもある。
まあ……車道が使えたとしても、こんな屍が彷徨いているワケわかんない状況で、バカ真面目にバスの運転する人なんているわけ無いんだけど。
「……とにかく、お母さんを探さなきゃ!」
お母さんの会社そばの植え込みに隠れながら、様子を窺う。会社の周りにも、何体かゾンビがうろうろとしていた。
ゾンビは基本、動きが遅い。いつか見たゾンビの映画のような、動きが早かったり、走ったりできるタイプがいないのは不幸中の幸いと言うか。
まあ、私は足には自信があるから、行き止まりとか出会い頭とかでなければ、逃げ切れると思うけど。
私は今では、帰宅部エースで友達もいない陰キャ系だけど、中学の頃は陸上部をやっていて、大会には必ず出場してたし、優勝も何度かしていた。
高校では陸上部には入ってないけど、停学になる前までは、毎日のように欠かさず朝のランニングをしていた。だから、足のとろいゾンビから逃げ切るのは余裕だった。
けど─────
「……問題は室内だよね……」
外や広い場所なら、どうにか逃げ切れるけど……狭い場所で逃げ回るのは難しい。
「お母さんの会社の中に、どれくらいのゾンビがいるのかなんて分からないし。何か、武器になるものがひとつでもあったらいいんだけど……」
草の陰に隠れながら、キョロキョロと武器になるようなものを探していると。私のすぐ後ろに、少し錆びついたシャベルが転がっていた。
「いいじゃん、シャベル!こんな近くにいい武器あんじゃん!」
お菓子とジュース、スマホしか入っていないスクールバッグを置き、シャベルを手にする。
「スマホだけ持って、スクールバッグはここに置いてていいかな。後はお菓子とかしか入ってないし」
そう言って、スマホをスクールバッグから取って、制服のスカートのポケットに入れると。
「……待っててね、お母さん。私が今、助けに行くからね!」
ギュッと、錆びたシャベルを思いきり握ると、植え込みから離れ、会社の傍から彷徨くゾンビに気づかれないように、静かに会社に近づき、そして。
お母さんの会社の中に、入った。




