嘔吐と失禁
「はぁ……はぁ……んぐっ」
カタカタと震える全身。重くて動かない足。
目の前の凄惨な光景に戦慄し、体が言うことをきかない。
はやく……早く、ここを離れなきゃ!私もこの人みたいに─────
クッチャクッチャと、顔色の悪い2人の人間が血に塗れながら、美味しそうに女の人を食べていた。2人が食べ進めていくうちに、普段は見えない人間の内部…臓器や骨が露になっていく。
早く、動け……ウゴケウゴケウゴケウゴケウゴケウゴケ!!!
私は動かない自身の足にそう言い、そして。
「っ!」
ローファーで地面を思いきり蹴り、私はその場から全力疾走で離れた。
◼◼◼
あの凄惨な現場から全力で離れ、私は知らないアパートの影に隠れた。
「うっ!……ぷっ……」
げほげほっ、と口からは胃の内容物を吐き出し、下からは温かい液体を失禁する。
恐怖で、体内のものを垂れ流す。まだ、全身の震えが止まらない。
「う……ぐ……吐いてる場合じゃない、救急車……いや、こういう時は警察……?」
カタカタと体を震わせながら、スクールバッグからスマホを取り出そうとする。けど、体が震えて言うことが聞かず。何度もスマホを地面に落とす。警察に電話する時も、指先がひどく震えて何度も数字を押し間違えた。
トゥルルルル……トゥルルルル……
震えながら、なんとか警察に電話した、けど。
「……何で?何で電話取らないのよ!」
ずっとコールさせるが、電話を取らない。番号を間違えたのかと思い、もう一度110番を押す。けど……
トゥルルルル……トゥルルルル……
「おかしい……今度はしっかり番号を確認したのに。何で……何で誰も取らないのよ!!」
コール音が耳許でいつまでも響く。不安と焦りで怒りが込み上げてくる。
「お願い……誰か出てよっ!」
ぎゅっとスマホを握り、電話を取ってくれることを強く祈っていた。
その時。
──────カサッ……
正面の方から、草を踏むような音がしたのと同時に、影がかかった。私は恐る恐る……顔を上げた。そこには──
「ア~……」
右腕が千切れた、知らないおばさんがゆらゆらとしていた。そして。
「アァアアアア!!!」
おばさんは私に襲いかかってきた。
「いやああ!」
私はおばさんの肩を掴み、抵抗する。おばさんはパクパクと口を動かし、今にも私に噛みつきそうにした。
おばさんの口の周りと手に、大量の血がついていた。このおばさんも、さっきの2人と同じように誰かを────……
「やだぁっ!!」
私はなんとかおばさんを体から引き離し、そのアパートから離れた。
「もう、何なの?一体何が起こってるの?あれ……たぶん、ゾンビだよね?あれはゲームだけのものでしょ?何であんなのが?私は夢でも見てるの?夢なら……早く覚めてよ」
住宅街を駆けながら、ひとりごちていると。
~♪
私のスマホが鳴った。
「!もしかして警察が……!?」
警察が掛け直したのかと思い、慌てて電話を取ると。
『……友加里?』
電話の向こうから聞こえてきたのは、ボソボソと小声で話すお母さんからだった─────




