「うっざ」
「うっざ」
私がそう言った瞬間、その場が凍りついたのがわかった。私だって別に空気が読めないわけじゃない。けど、これはうざい。
◼◼◼
休み時間にトイレに入ると、女子数人がトイレの奥に集まって何かしていた。何かってまあ、所謂イジメってやつなんだけど。
「お、柊。ちょうどいいところに来たわね」
全体的に茶髪で、毛先が謎に緑色に染めたケバい同級生女子が、手のひらに何か乗せていて、にやにやとしながらそれを私に見せた。ヤモリだ。死にかけているのか、彼女の手のひらの上でピクピクしていた。
「ヘ~ヤモリ触れる人なんだね。で?それが?」
「このヤモリをブス子にあげようとしてるんだけど、遠慮してもらわないのよ~。せっかくブス子にあげるために、トイレの隅っこで死にかけてたこのヤモリを拾ったのにさ~。ほら!遠慮しないでってば!」
そのヤモリを手に乗せた女子は、ブス子こと、古木田さんの口もとにヤモリを近づける。古木田さんは、泣きながら近づけられたヤモリから顔を反らせる。古木田さんは逃げようにも、そのヤモリを持ってる女子の友達2人に両腕を掴まえられてて逃げられない状態なのだ。
私が冷ややかにその現場を見ていると。
「ねえ柊。あんたの方からコイツにヤモリをあげてやってよ。そしたら、あんたを私たちの友達にしてあげるから」
そう言ってヤモリを持った女は、私にヤモリを渡そうと私の傍に近づけた。
私は。
ぱしっ!
ヤモリの乗ったその女子の手を、横にはたいた。手をはたいた勢いで、その女子の手からヤモリがトイレのタイルにぺちっと落ちていった。
「うっざ」
私は蔑んだ目でその女子を見ながら、そう言った。
そして、冒頭に戻るのである。
◼◼◼
「……は?」
ヤモリ女は私を睨みながら、さっきとは違う低い声で一言そう言った。
「やりたきゃ勝手にあんたらでやってればいいでしょ。私は関係ないんだから巻き込もうとしないで。てか『友達にしてあげる』って何様?私はあんたらみたいなケバクズらと友達になんて、これっぽっちもなりたくないんですけど」
私がそう言うと、ヤモリ女はみるみる鬼のような怒り顔になっていった。
そして。
グシャッ!
トイレのタイル上に落ちた死にかけのヤモリを、ヤモリ女は上履きで踏み潰した。
「……ちょっと美人で男子にちやほやされるからって、調子に乗りやがってクソビッチ!」
「別に調子に乗ってないし、てか男子にちやほやされてないし……まあ、あんたらブス3人と比べたら、私はめっちゃ美人ですけど?」
顎をあげて見下すようにしながら、フンと鼻で笑った。するとだんだん、ヤモリ女の顔が怒りに歪んでいく。
そして私はトドメに。
「てか、あんた誰だっけ?名前知らんわ(本当に忘れた)。とりあえず、ヤモリさんでオッケー?」
私が嘲笑いながらそう言うと。
「このクソビッチがああああ!!!」
ヤモリ女が拳を握り、私に殴りかかろうとした、その時。
「あんたたち何やってるの!もうとっくに授業開始のチャイムは鳴り終わってるのよ!?早く教室に行きなさい!!」
ヤモリ女の怒鳴り声で、通りすがりの先生が駆けつけた。
「……チッ!これで済むと思わないでよね」
そう言いながらヤモリ女は、通りすがりにわざと私の足を踏もうとしたけど、それに気づいた私は、その足を避け「だっさ」と、鼻で笑った。
ヤモリ女は般若のような顔をしながら、友達らとトイレから出ていった。




