ぐちゅっ…
「おか~さーん……」
開いた両開きの扉の入り口から、そろーっとお母さんの会社に入る。建物内はひどく散らかっており、椅子やデスク、ロッカーなども倒れていた。その中には、人の死体も何体か転がっていて、ゾンビに食われたのだろう、腕や足、上半身が無いなど、損傷のひどい死体ばかりだった。
「ごめんなさい……」
血に塗れた血腥さい社内。手の甲で鼻を押さえ、死体を跨ぎながら、お母さんを探す。けど、どこにもお母さんの姿は無く。
「……上の階かな?」
階段を上り、2階に行く。1階は静かで、人の気配がなかった……けど。2階に着くと、何処からか誰か……なのか、ナニカなのか分からないけど、足音のようなものがいくつか聞こえる。
私はごくんと唾を飲み、ぎゅっと、シャベルを持つ手を強めた。
1階はフロア全てを使った、銀行の中のような入り口にカウンターが置いてあり、その向こうにはいくつものデスクがある、という感じの造りだったけど、2階はオフィスや会議室、給湯室などのルームがいくつかあった。
物音や足音がする部屋は怖いので後回しにし、まずは静かな部屋の方から、お母さんを探すことにした。
「おかぁ~さ~……ん……いる~?」
重たいシャベルを担ぎ、なるだけ物音をたてないようにお母さんを探す。けど、どの部屋も物が床に散乱していて、歩きづらい。
すると。
コッ……ズルッ……
オフィスルームでお母さんを探していると。足を引きずって歩いているような音が、こちらに近づいてきた。
やばい!
慌てて机の影にしゃがんで隠れ、そろっ……と、音のする方を覗き見ると、スーツを着た男のゾンビが廊下から徘徊していた。ゾンビになる前にやられたのか、右足の太ももの部分が食い千切られていて、その方の足をズルズルと引きずっていた。
気づかれないように、息を殺す。するとそのゾンビは、1度私がいるオフィスルームを通りすぎたかと思ったら、戻ってきて私のところにゆっくりと向かってきた。
!?なんで?!気づいてないはずなのに、なんで私のところに向かってくるのよ!?
私は机の影に隠れながら、シャベルを脇でぐっと挟んで抱え、音を立てないようにゾンビの足音から逃げる。机の死角を利用し、オフィスの出入り口から逃げる作戦だ。
音を立てるのが怖くて、唾も飲みこめない。吐息でもバレそうな気がして、浅くしか呼吸ができない。だから、とてつもなく息苦しい。見つかって食い殺される前に、窒息死しそうなくらい、私は息を殺していた。
ゾンビの足音を耳で確認しながら、シャベルを机や床にぶつけたりしないように注意し、机の角を曲がった。
瞬間。
ぐちゅっ……
水っぽい柔らかい何かを、手で潰した。手元を見るとそこには──腹を食い破られた男性の死体が、血の池の上で転がっていた。私が手で潰したものは……その人の内臓だった。
「きゃああああああ!!!!」
私が大声で悲鳴を上げた瞬間だった。ゾンビは私に気づいたのだろう、こちらに向かってくる足音が早くなった。




