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リリィとユリウス

新婚さんの異世界耳かき騒動

作者: HOT-T

 私の名前はリリィ。

 ナダ共和国の首都ノウムベリアーノ在住の24歳。

 最近、学生時代からの腐れ縁であるユリウスと結婚して彼と2人で新婚生活を送っているのだが……


「うーん」


 夕食後のティータイム。この穏やかな時間は私たちにとって大事なルーティーンのひとつである。

 紅茶を口にしながら読書をしている夫を眺めているわけだが…………『耳』が気になる。

 耳から何が……覗いている。風でちょっとひよひよ動いているそれは耳垢な気がする。


 いやいや、たまたまだろう。

 幾ら生活能力が無いお坊ちゃまな彼でも耳掃除くらいは……いや、ちょっと待って。


 私は家の中を見渡す。現在、私達は彼が実家を追い出された後に借りている貸家に住んでいる。

 生活能力に低さから家の中にはいろいろと足りないものが多かった。

 実家から引っ越して来るにあたって暮らしやすい様ある程度はものを揃えたのだが……


 この家、よく見れば耳かきが無い。

 意外な盲点。まさかそんなものが無いとは微塵も思っていなかったのは失敗だ。

 つまり彼は『耳掃除をしていない』ということになる。


「ねぇ、ユリウス」


「うん。どうしたんだい?」


「あなた、耳掃除って……どうしてるの?」

 

 正直、聞くのが怖い。

 お願いだから『はっはは、それくらい定期的にやってるさ』とか笑い飛ばして欲しい。


「耳掃除?それは何だい?」


「えっ……」


 ああ、想像の斜め上が来たわね。いや、この場合は斜め下?

 まさか、この人耳掃除の存在自体知らない?いやいやそんなわけないわよね。

 きっと私をからかっているのよ。


「耳に垢が溜まるでしょ?それをどうしてるのって聞いてるの」


「……耳って掃除しないとダメなのかい」


 あーうん。やっぱりそうなんだ。

 私の淡い希望はあっさりと打ち砕かれてしまった。

 という事でいつもの調子になる。

 

「はあああ!?当たり前でしょ?いくらある程度は自浄作用があるとはいえ、溜まるのよ!?何か聞こえにくいとか感じた事は無いの!?」


「うーん。確かにあるね。疲れているのかと思ったよ」


「耳垢が詰まってるのよ、それ!!ああもう、ちょっとこっちに来なさい」


 世話が焼ける!!

 ソファに移動した私は夫を呼び寄せると膝に頭を置くよう促す。

 いわゆる『膝枕』である。


「ねぇ、君。これはとても刺激的というか素敵な体験だよ」


「そうね。多分世界であなただけにしか許されていない行為よ」


 男性恐怖症の私にとってこうやって触れ合えるのは彼くらいだ。

 恐怖などは無くちょっと恥ずかしさと嬉しさが入り混じった感情が沸き上がってくる。

 愛の力というのは凄いと改めて感じる。

 

「なるほど。それで、その耳掃除というのは一体どんなことをしてくれるんだい?」


「ふふっ、まあ私に身を委ねさない」


「それは凄く刺激的だね。何だかドキドキしてきたよ」


 私は自分だけが持つ『創造錬成』というスキルを用い、魔力から使い捨ての耳かきを作り上げる。

 頭の中で形作った多分こんな形だった気がする。

 いや、待って。先っぽが鎌状なのはマズイわね。

 このままじゃ彼の耳を斬り裂いてしまう。えーと確か先っぽはもう少し平たい感じで耳垢を掻きだす形に特化していたわね。

 先っぽを少しずつ調整していくが中々思った形にならない。

 

「あの、リリィ。幸せな一方でそこはかとなく恐怖も感じるのだけれど……」


「はっ!効率を求めたはいいけどこの螺旋では耳の中を抉ってしまうわね」


 男のロマンだと父様が言っていた『ドリル』状になった耳かきを見て口を尖らせた。


「ええっ!?な、何を作っているんだい!?凄く怖いよ!?」 


 苦心する事30分。

 ようやく理想的な形に錬成が完了した。

 

「よし、出来た!」


「ねぇ君、知らなかったけど耳掃除って大変な作業なんだね」


「まあ、そうなるわね」


 何で耳掃除ごときにこれだけ気力を使うのだろう。

 姉からは『あんたは完璧主義者だからもう少し肩の力を抜いたらいいのに』と言われたことがある。

 自分が完璧主義者なのかは疑問が残る所だが妥協は確かに必要だと思う。


「それじゃあ、覚悟なさい」


「やっぱり覚悟とか必要なのかい!?」


「動かないでよ?下手したら耳を貫くかもしれないが」


「ひぃぃぃぃ!?」


 怯える夫の耳を掃除しながら、ふと小さい頃の記憶に想いを馳せる。

 そう言えば、よく母様も父様の耳掃除をしてあげてたっけ。

 仲が良いなって少し憧れたのよね。


「ちょっ……あっ……ああっ、そ、そこ凄くいいよ……ぁあっ……」


「変な声を出さないの!何か私達がイチャイチャしているみたいじゃない」


「いやいや、これはある意味イチャイチャしているよ。ああっ……はふっ……こ、こんなのは、初めてだッ!!」


 妙に色っぽい声を出す夫にドキドキしながら私は両方の耳を掃除して結構な量の耳垢を掻きだした。

 彼はというとぐったりとしてしまい顔が蕩けていた。


「そ、そんなに気持ち良かったの?」


「ああ。ありがとう。凄く良かったよ。耳垢とやらが溜まっていたらまたお願いしたいよ」


「ま、まぁいいけど……」


 ふと、家の外でがさっと誰かが動くような音がした。

 そっと外の様子を伺ってみるが誰も居ない。その代わり、籠に入った果物が置いてあった


「何だったのかしら?泥棒とか?」


□ 

 後日、仕事の関係で冒険者ギルドに行ったのだが受付嬢をしている姉に声を掛けられた。


「あ、あのさリリィ。この間、ホマレがあんたの所に果物届けに行ったんだけどね。その、血の涙を流しながら帰って来たのよ」


「えっ?果物!?」


 あの果物はどうやら3歳下の弟が届けに来てくれたものだったようだ。

 だけど何であんな置き方をして行くのかしら。

 心配になるくらいシスコンなあの子なら私に直接渡して頭を撫でて貰うくらいの事はするはずなのに。

 

「あの、そ、それで話を聞いたらあんたとユリウスがその、リビングで何か凄い事を致してたのが聞こえたっていうらしくてね。もう2日ほど寝込んじゃってるのよ」


「致してるって……い、いやあれは」


「そ、そりゃ結婚したんだしあんたがそういう事を出来る様になったのはあたしも嬉しく思うけど、その、もう少し場所を考えた方が」


「ち、違う!誤解だから!完全にあの子の誤解だから!!!」


 結局この後、実家へ行って寝込んでいる弟に事情を説明。

 それでもいじけているので仕方なく耳掃除をしてあげたら猫のように喜んで体調も戻ってくれたのだけれど……どうしよう。本気でこの子の将来が心配になって来たわ。


「えへへ、姉さーん」


「はぁ、本当にこの子どうしよう……」


 

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