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また、猫になれたなら  作者: 秋長 豊
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35、決着

 2人は同時に地を蹴っていた。


 黒猫拳と白猫拳が空中でぶつかり、強風が境内にある竹を揺らす。空雄の右拳は流太の左拳に阻まれ、すぐにやってくる右拳に狙われていた。相手の思惑を読み、リスクを回避する。それがこれまでの対人訓練で空雄が学んできたことだった。右拳で殴ると思わせて次にくるのは、足だ。


 空雄は体をひねった。隙に付け入ろうと伸びてきた流太の左足がそれる。最大限までためていた左拳をさらにきつく結び、空雄は流太の胸に突き出した。明らかに当たった感触はあったが、すんでのところを手のひらで防がれていた。流太は地面に両脚をつき、数メートル引きずった。


 まだエネルギーがたまらないうちに、2人の拳は強烈な速さでぶつかった。やはり強い。流太の拳がたたき込まれるほどに、空雄は力に負け後ろに押されていた。一瞬でも気を抜けば、確実に急所を突かれる。空雄は極限の集中力で拳を受け続けた。次第に周囲はいつも訓練をしていた竹林に移り変わっていた。


 空雄は流太の右蹴りを真横に食らった。咄嗟に立てた左腕を盾にしたものの、鈍痛が襲い骨がきしむ。内臓が力の法則に従い皮膚の内側で重力につぶれる。目の前を膨れ上がった流太の黒い光がのみ込む。しまったと思うころにはもう、空雄は顔面に右拳を食らっていた。めりめりと沈み込む。空雄は竹に打ち付けられながら坂を転がっていた。地面から突き出た岩で着物がやぶれ、肌が切れ、血が飛ぶ。


 空雄はしばらく動けなかった。左肩の骨が折れているせいか、腕をうまく動かせない。左目も開かない。顔の左半分は機能しなかった。頬の骨と歯は折れ、おびただしい内出血の痕が浮かぶ。


 はいつくばり、右手で土を握る。ぼやける視界の中、坂の上から見下ろす流太の姿が見えた。うまくしゃべれない。歯が折れ、骨が粉々になっているからだ。それでも空雄は、動かせる筋肉全てを使い、声を出した。


「勝たなきゃ……いけないんだ」


 流太は笑顔のない顔で聞いていた。


「みんなと、流太さんと一緒に、人間に戻りたい。だから俺は、あなたを超えたいんだ!」


 空雄は両拳を握った。左右に白い光が湧き、風を引き寄せていく。流太も構え、光をため風を押し出した。


 空雄は思い出していた。猫拳を流太に教えてもらった日のこと、初めて対人訓練をした日のことを。確かに流太は戦い方を教えてくれた。けど、それだけじゃない。


 空雄は足を踏み出し、右目を大きく開いた。最大限エネルギーをためた左拳をパッと解く。


 拳を解けば、ためていたエネルギーは外に流れる。流太は虚を突かれ、明らかな動揺を目に浮かべていた。拳の解除は猫戦士にとって弱点。見せてはいけない隙なのだ。


 だが、エネルギーが流れる方向を意図的に変えられるのなら。無駄にはならない。空雄は解いた左手で自分の右拳を覆った。白い光は瞬く間に巨大な光の柱を形成した。


「あなたは俺に、負け方を教えてくれた。でも同時に、勝ち方も教えてくれた……!」


 空雄は右拳を流太の右拳にぶつけ、全身全霊で振り切った。その先にあったのは流太の胸部だった。黒い光がかき消えるのと同時に、流太は坂をえぐりながら吹き飛ばされていた。


 空雄も自分の放った猫拳の威力で後方に飛ばされ地面に倒れた。風圧で周囲の竹がしなり、ミシミシ不気味な音を立てる。


 空雄は激痛が走る体を起こし、骨折して動かせない左肩を押さえ、ゆっくり流太がいる所まで歩いた。流太は坂の中腹であおむけになって倒れていた。空雄は歩み寄ろうとしてつまずいた。頭がズキズキして立っていられない。小さく彼の名前を呼び手を伸ばしたが、指先が届く前に意識がパタリと途絶えた。


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