婚約破棄未遂事件、そのあとで ~ 贅沢には理由がある ~
思いつきで書きました。
後悔はしていません!
王国歴785年
公爵家立フィリス高等学院、その卒業式にて事件が起きた。
第一王子がその婚約者に婚約破棄を宣言したのだ。
被疑者は……
王位継承権第一位、アレックス王子
グラトニー公爵家の養子で次期当主、レオナルド
宰相の次男でバッカニア侯爵令息、エドワード
元帥の孫のノーリッツ子爵令息、フォリス
彼らを籠絡したミニッツ男爵令嬢、マリア
被害者はアレックス王子の婚約者で、レオナルドの義妹、
マリアンナ嬢
マリアンナ嬢のその身長は平均的な成人女性より若干低めではあるが、その体重は長身の成人男性よりも重い。
さて、被疑者である彼らの言い分は、
国中が貧困に喘いでるにも関わらず、グラトニー公爵家は全身が脂肪まみれになるほどに贅沢を極めていることから、グラトニー公爵家は爵位返上及び全財産を国へ放出すべきであると。
なるほど至極真っ当な言い分であり、すぐさま実行に移すべき事であるように聞こえるが、この国に限っては国家転覆罪に処される内容である。
――― 翌日 王城 貴族牢 ―――
「この馬鹿者が!今まで何を学んできた!!」
アレックスの父である国王の怒声が響く。
卒業式は中断され、アレックスを含む面々は騎士達に連行された。
アレックスは貴族牢にて一晩過ごし、明け方に諸々の後始末で寝ていない国王と王妃と宰相がやってきて、その開口一番である。
「お言葉を返すようですが、他国ならいざ知らず、王国の現状でグラトニー公爵家の散財は人道に反して……」
「馬鹿なことを!グラトニー公爵家の散財を止められるはずがなかろう!!」
アレックスの反論に対し国王の怒声が再び響く。
「グラトニー公爵家の散財を止めるだと?それこそこの国は滅びるわ。
宰相、教育係と学院に何を教えてきたのか確認せよ」
「既に手配してあります」
(公爵家が贅沢を止めると国が滅びる?)
アレックスは国王の言葉に困惑する。
「あの家は民の代行として贅を貪っておるのだ。消費を失くして市場は回らん。市場が回るからこそ我ら王侯貴族は税を受けれる、それもわからんのか」
「なればこそ公爵家は財を放出すべきでしょう!王家でさえ貧しているのはあの家が溜め込んでいるからではありませんか!」
そう、この国はグラトニー公爵家を除き、貴族でさえも貧しており、グラトニー公爵家の寄付によってかろうじて貴族としての体面を保っており、それは王家も例外ではない。
その総資産は一国を築けると言われている。なるほど財を放出すれば貧困の問題は一気に解決するだろう。
しかし……
「門番、鍵を開けよ。付いて来るがよい」
国王はアレックスの言葉にため息をつき、牢を出るよう促す。
そしてその先の部屋でひとつの書類を手に取り、アレックスに読ませると……
「なんだこれ!?」
――― 同時刻 グラトニー公爵家 王都邸 執務室 ―――
「最低税率?法定の……なのに税収が支出を上回ってる!?」
レオナルドは公爵よりアレックスが見ているものと同じ内容の、むしろその最新の書類を見せられていた。
「レオナルドさん、私たちが贅沢を止めるのは簡単です。
しかし、それをすれば金の動きはここでストップしてしまうのですよ」
レオナルドは支出の内容に目を通すが、公爵家の贅沢のみならず、領内の公共事業、孤児院へはもちろん、全貴族家へもの寄付が法定上限ギリギリで記されていた。
また本来王家が支払うべき公共事業の支払いに、近衛騎士団の維持費もしていた。
さらに王家への寄付は、アレックスとマリアンナの婚約をもって上限を上げてまでいるのだ。
「私たちの私的な贅沢は公爵家全体の支出からみればわずかなものですが、それすらも今の王国を維持する柱となっています」
さらに公爵家で雇っている者は王都邸、公爵領邸、別荘にて雇えるギリギリ上限の人数で、それぞれ破格の給与を与えており、福利厚生もあり、加えて全員になるべく贅沢するようにと言いつけている。
「レオナルドさん、私たちはここまでやってやっと市場が回るようになっているんです。
あなた達が言うように財を放出すれば確かに国は潤うでしょう。ですがそれは一時的なもの、市場の流れに淀みができましょう」
公爵領は広大で、面積単位でみれば税収は僅かなもの、とても他家に任せることはできない。
「十年前、レオナルドさんを引き取る少し前ですね、私たちは贅沢するのに疲れ手を抜きました。その次の月にある村が落ちました」
レオナルドは目を見張った。
「そうです、レオナルドさんの故郷ですよ。
すぐさま贅沢水準を戻しましたが、淀んだ市場の流れはすぐには戻りませんでした。
私たちは遊びで贅沢しているのではありません、死ぬ気で贅沢しているのです!」
彼ら一行は本来であれば処刑されてもおかしくない。しかしマリア=ミニッツを含め処罰内容が謹慎と卒業取り消し程度なのは、市場に対する影響が最も少ないからだ。
レオナルドは膝から崩れ落ちた。
その時廊下からドタドタと貴族らしくない足音が聞こえ、マリアンナが執務室に飛び込んできた。
「マリアンナさん、はしたないですよ」
「そんなことよりこれを見てください!」
公爵は額にシワを寄せるが、ひとまずマリアンナの差し出した紙に目を通し……
「こ、これは!」
「庭師のジャンとお話していましたら思いつきましたの!」
「でかしましたよマリアンナさん!意外なところにヒントがあったのですね」
「はい、これが成功すれば市場が活性化します!」
「私たちが贅沢から解放される時が近づきますね。そこのアナタ、執事長を呼びなさい!王宮への先触れを出しますよ!」
項垂れるレオナルドを放置して二人は興奮する。
十数年後、王国は貧困から解放され、グラトニー公爵家と王太子妃となったマリアンナは、それまでの贅沢の反動で質素な生活をおくるようになる。
アレックスは王太子に、レオナルドは次期公爵にと据え置かれたが、エドワードは内定していた王宮文官の道を断たれ領地の代官に、フォリスは騎士にはなれたものの希望していた近衛騎士団への道を断たれ、そしてマリアは生涯結婚できなかった。
公爵のしゃべりを某「F」に似せてみた。
後悔はしていません!