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多分、雨が降るまで  作者: K.Dameo
3/5

光盲闇

髪を切ったから、もしかしたら気付かないかもしれないな。


支度を終え、鏡の前に立った時、そんな事を考えいたんだと思う。


「うっ……眩しい……」


外へ出ると、その日は季節外れに暖かく、日差しも眩しかった。


暖冬、といえど、寒いものは寒い。

冬は寒いものであって、そういう意識下の元過ごせば、少し冷えた一風が肌を撫でれば寒いと感じ、冬だと意識する。


だけど……“その日”は暖かかった。


嫌いな寒さ、冬、それらを忘れさせ、更にはいいものだと思えるくらいに、暖かかったんだ。


「ふふっ……」


今でも思い出す、あの日―――。












『説明しよう。それはバナナだ』



マンキー博士はキラリと歯を輝かせ笑顔で―――。



「ち、違うっ……! なんか違う事を思い出したっ……」



マンキー博士とは一体……?


しかも、バナナを説明されるとはどういう状況か。


「………」


無かった事にして……。


「ふ、ふふっ……」


今でも思い出す、あの日―――。








『HEY! 彼女! キミが落としたのは、お前のパンツか、ミーのパンツかっ?』









「っざけんな、私っ! 昨日の夢だそれは!!」



駄目駄目っ、ちゃんと思い出さないと。


そう、今でも思い出す。



さあ、思い出すぞ。



あの日―――。






「―――あれ? なんだっけ?」







あの日………。






『春ちゃん、これ、あげる』



懐かしい……幼稚園の頃の記憶だ。

名前は確か……タケオ?


いや、タカ………。



そう、タカシ君だ!


初恋の相手!


「元気してるかなぁ~……」


今頃すっごい男前になってたりして。


「って、だから違うっての!」


ちゃんと思い出さないと。


あの日………。



「…………」



あれ……? ほんと思い出せない。


昔の事は思い出せるのに。



「ん……? 昔の事?」



あ、そうだ。


マンキー博士って、子供の頃観てた番組だ。


「でも、なんで急に思い出したんだろう?」



まあ、いっか。



「……で?」


何を思い出そうとしてたんだっけ?



“……こえ……か”



「ん~………」


駄目だ、思い出せない。



それどころか、思い出したい事以外の事も思い出せない。


なんていうか、真っ暗闇みたいな……。



“こえますかっ……です……か…… ”



「ん? なにさっきから? 」



越えますか?



何を?



“大丈夫ですか!”



「大丈夫?」


え、なんなのさっきから。


何かあったのかな?


“応答がないな……かなり危険かもしれん”


“外傷からもだいぶ酷さは見て取れるからな”


……なんか、怖いこと言ってる。

事故かなんか、かな。



“よし、とりあえず、担架に乗せるぞ”


“あ、おい。ちょっと待て”


“馬鹿っ、待ってる場合か! 一刻を争う―――”


“いや、いいから見ろ! あれっ……!”


“っち……。あれって、なんだ―――”









「だから、あれだよ。………指」








日曜の午前7時。


閑静な住宅街で人身事故が発生。


運転していたのは70代の男性。


被害者の20代前半の女性は重体。


事故近辺の住民によると、大きな音がして外へ出ると家の目の前の電信柱に車が突っ込んでおり、車の後方の道路の端には女性が血を流して横たわっており、その更に後ろには靴や鞄、そして血の跡のようなものが続いていたとのこと。












「引きずられたのか……酷いな、これは」






髪を切ったから、もしかしたら気付かないかもしれないな。


支度を終え、鏡の前に立った時、そんな事を考えいたんだと思う。



そして、家を出たら眩しくて、目が眩んだその一瞬。



急に左側から車の音がして。





“そう……私。”









“轢かれたんだ。”






事故現場から数十メートル先。

引き摺られた際に千切れてしまったであろう、女性の指。

その指にはまった銀色の指輪は朝日を反射して眩しく輝いていた。






悲惨な現場に不釣り合いなほどに。







しかし、どんな悲惨な事柄も残るは束の間。

血濡れた跡も雨に流れる。

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