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多分、雨が降るまで  作者: K.Dameo
2/5

雨中雨

夏に差し掛かろうかという梅雨の終わり。



悪あがき。



とでも言い表せるほど、その日は灰の色に包まれ、大粒の雨が踊り、地を荒らす。



僕は嫌いとぐずり、屋根から出ず。



彼女は好きといって飛び出し、雨と共に踊る。


「おいでよ」


と彼女は手を差しのべる。


誘いにぐずる僕。


だが、しびれを切らした彼女に手を引かれ、半ば強引に降りしきる雨の中へと連れ出されれば、途端、服に雨が染み渡り、濡れた世界の一部と化す。


「ね?楽しいでしょ?」


びしょ濡れになりながら無邪気な笑顔を向けてくる彼女に、僕は素直に「うん」とは言わない。


けど、彼女はそういう所が好きだという。



素直じゃないという素直な所が好きだという。



我慢ばかりして、自分を出せず、堪り兼ねて、悔しくて、彼女の前で泣いてしまった時も、無理に励ましたり困るでもなく、彼女は「そんなにキレイな泣き方なんて知らないよ」と褒め、情けない僕を抱き締めた。


彼女には僕は異性として、男として、見えていないのかもしれない。


その証拠に、かわいい存在だと。


鳥籠にでも閉じ込めてしまいたいと言われたこともある。


でも、閉じ込めてばかりでも駄目だと、僕が知らない、したこともないことに連れ出してくれたりする。



今この時もそう。


雨が嫌いと言ったら、彼女は同じように雨宿りしていたくせに、僕の言葉の対岸に立ち、雨が好きだといい、証拠に降りしきるなかに躍り出る。


ただ僕も……。


いや、僕も……。



好きだ。



嫌いな雨も、つまらない学校も、めんどくさい行事も、楽しくない試験勉強も。



……彼女とならなんだって好きだ。


でも、二言目には、彼女への返しの一言目には彼女を否定する。


本当は好きなのにおかしいんだ。


照れ隠し。


子供っぽいが、きっとそう。


いや、間違いなくそう。


そして、彼女はそれを多分……分かってる。


証拠に僕が何を言おうと笑顔で聞いて、それから強引な時もあるが良さを教えてくれる。


僕も僕で、彼女がそう行動することを分かって否定しているのかもしれない。


そう。


好きなんだ。


彼女がいればなんだって好きになれる。


彼女との時間、それが一番好き。








そうだよ……。




ほんと、好きだった。




なのに、なのに……さ。





そんな彼女はもう……。





いずれ僕も向かうであろう所へ、先に……。






旅立った……僕を、置いて。










あの日の雨。


それが、僕と彼女の心と身体が一番


近付いた瞬間。



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