03.天宮寺 麗華
「僕の両親が亡くなったって……」
「ええ。残念ながら……。今朝私の親が経営している病院で息をお引取りに……」
「僕の……両親……」
何故だろうか。大切な人であるはずなのに顔が思い出せない。
頭の奥が激しく痛む。痛みで今にも泣き叫んでしまいそうだ。
張り裂けそうな胸を押さえ膝を床につける。
「おかあ……さん……おとう……さん……」
まるで自分のものではないかのように体が震える。
「うわああああああッ!!」
「智広くん!」
「触らないでくれ!」
僕は無意識に差し伸べられた彼女の手を払いのけた。
「痛っ」
「あっ……ごめん……そんなつもりじゃ」
僕は罪悪感から彼女に顔を背ける。
「……智広くん、こちらを向いて」
「……はい」
言うとおりに彼女のほうへ向く。
「そう心配しないで。私は大丈夫だから。……今は御両親様のために悲しみなさい」
僕は泣いていた。一時間くらいずっと。
彼女はその間ずっと僕を両腕で抱いてくれていた。
「ありがとう。えっと……」
「麗華。天宮寺 麗華」
「ありがとう、天宮寺さん」
「天宮寺さんはやめて。麗華って呼んで」
「わかった。麗華」
「……それにしても本当に覚えてないのね」
「うん。頭ばっかり痛くなって何にも思い出せないんだ」
「そっか……じゃあ私と付き合ってることも覚えてないの?」
「うん……え?ええぇぇぇ!?」
「忘れてるんだ。……そう」
「いや、え?でも」
「私、智広くんとかなり深い仲なんですよ?」
「でも僕は楓と……」
「楓って?立花 楓さん?あの人となにかあったの?」
「いや、えーっと楓と僕は恋人?らしくて」
「は?いや、智広くんの恋人は私ですって。というか何故疑問形?」
僕と麗華はお互い首を傾げる。
「まさか……浮気?」
「それはない……と思いたい」
「ふーん」
麗華が疑いの目を向けてくる。
「そういえば何で麗華が僕の記憶喪失のこと知ってるの?」
「え?ああ、朝智広くんが楓さんと転校生の寧々さんと歩いているときの会話を偶然耳にしまして」
なるほど。確かに記憶喪失について話してたな。
「ちひろくーん」
後ろのドアが開く音と共に楓が現れた。
「あ、いた。ちひろくん、流石に遅いよ。もう一時間目終わっちゃったんだからね」
「楓……」
「楓さん、ちょっとお話いいですか?」
「何ですか?麗華さん」
「私の智広くんにちょっかいかけるのやめてもらえますか?」
「はい?何を言ってるんですか?」
「あなた、智広くんに自分が彼女だと嘘をつきましたね」
「嘘って……私は智広くんの恋人なんですから嘘ではありません」
「証拠はありますか?」
「証拠?」
「デートしたときの写真とかそのような類のものです」
「なんであなたにそんなこと……」
「証拠無いんですか。じゃあ私が真の彼女で間違いありませんね」
「ちょっと待ってください!私、持ってます。……ですが今はないので放課後なら」
「わかりました。じゃあ放課後、智広くんの家に集合でどうですか」
「麗華さんもあるんですよね?証拠」
「当然あります。偽カノに智広くんは渡しません」
「誰が偽カノなんですか?」
少し似ているかもなぁ。この二人。
「そういえば寧々はどうするんだ?」
「ネネさんですか。ちょうどいいですね。一石二鳥で」
「あら。楓さん。それは私の台詞ですよ」
二人とも自信満々だな。ネネは……言うまでもないんだろうな。
「むかーーー!チヒロはネネのなんだから!」