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カクシゴト~本物の彼女~  作者: 御井 深美
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02.記憶喪失の少年 その2

「寧々さん……だっけ?ちょっとちひろくんから離れてくれる?」

「あんたこそいい加減ちひろから離れなさいよ」


 右腕に楓、左腕に寧々が絡み付いている。

 歩きにくい。それに


「道行く人の目が冷たいんだよなぁ」

「ちひろくん?どうかしたの?」

「えっ、いやなんでも……って」


 腕に柔らかいものが当たる。これはすごい。


「ち・ひ・ろ」

「イタタタタ!痛いよ!!」


 寧々に腕をつねられる。


「確かに私、胸はないけど……それでも……ちひろのこと満足させられるんだから」


 寧々が上目遣いでこちらを見る。その表情になんだか頬が熱くなる。

 寧々の顔が僕の顔に近づく。これって


「ちひろくん」

「……ハッ」


 楓が頬を膨らませていた。


「ちょっと邪魔しないで。今いいところなの」

「邪魔なのはどっちなのかな」


 毎朝こんな風に登校するのかな……。

 まだ始まったばかりの生活に不安を抱いた。



 靴箱の前に着く。寧々は転校初日なので教務室に向かっていった。


「そういえば僕って名簿何番なの?」

「34番だよ。」

「ん。ありがと」


 楓に言われた番号の靴箱を開く。


「なんだこれ?」


 手紙のようなものが一通入っていた。

 これってまさか……ラブレター!?

 楓に見つかると色々と不味いよな。

 僕は急いでポケットに隠した。


「ちひろくん。今何か……手紙みたいなの隠さなかった?」

「えっ。な、なんのこと?」

「隠さなくてもわかってるから。ちょっと見せてよ」

「え、えーっと」


 楓の目線が僕のポケットに向く。


「ここだね」

「あっ」


 ポケットに手を突っ込まれ手紙をとられる。


「!?……そういうこと」

「ちょ、勝手に見ないでよ」

「ちひろくんには必要ないものだったから私が代わりに捨てておくね」

「えっどういうこと?」


 僕には必要ない?……なるほど。やっぱりラブレターか。


「返してって言っても駄目なんだよね」

「こればかりは」

「……わかった。楓がそういうなら」


 一体誰がどんな理由で僕のこと好きになったのだろうか。

 記憶を失う前の自分の手がかりになったかもしれないけど今は忘れよう。

 悶々とした気分で教室へ向かった。



 教室に入り楓に席まで案内してもらった。


「ありがとう、楓。楓の席はどこなんだ?」

「窓際の一番後ろ。羨ましい?」

「んー。ジェラシーよりエンヴィーって感じ?」

「私のこと覚えてない割にはその違いはわかるんだね」


 楓が意地悪な笑みを浮かべて言う。

 ジェラシーの方が重い嫉妬。だから何という話だけど。


「じゃあとりあえず私は席に戻るから」

「うん、色々ありがとう」


 楓は席に戻っていった。


「よう」


 昼休み、俺と同じくらいの身長の男が話しかけてきた。


「よ、よう。元気にしてた?」


 誰だか分からないけどとりあえず挨拶を返した。


「智広……もう大丈夫なのか?」


 彼は暗い表情で言葉を発した。


「え?何が?」


 何に対して心配しているのだろうか?


「何がって……お前」


 信じられない様な表情で僕の目を見つめる。


「春樹くん、智広くんが困っているみたいだからそこまでにしなさい」

「いや、でも」

「後は私に任せなさい。春樹くんは席に戻ってね」

「……わかったよ」


 春樹という名前の男は自分の席に戻っていった。


「こんにちは、智広くん」

「こ、こんにちは」


 仕草に品がある。いかにもお嬢様って感じだ。


「ここでは話しづらいから屋上へ行きましょうか」

「えぇ、屋上ですか……?わかりました」


 真剣な顔で見つめられ断れなかった。

 というかはっきり言って雰囲気に呑まれた感はある。



 屋上に行って柵に寄りかかる。


「それで話ってなんですか?」


 彼女は最初どういえばいいか考えている素振りをみせ、やがて姿勢を正した。


「智広くんのご両親様、今朝息を引き取られたわ」

「……え?」


 何を言ってるんだろうか。この子は。

 彼女の予想もつかなかった言葉に僕は自分の感情を見失った。


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