01.記憶喪失の少年
なんとも言いがたい匂いが鼻をかすめ脳に達する。
頭が痛い。視界もぼやけていて誰の声か判らない叫び声が聞こえる。
何か大切なものが頭から消えていく。
「僕は一体誰なのだろう」
大粒の汗が流れる。最悪の寝起きだ。
頭がぼんやりしてここがベッドの下だと理解するのに5分かかった。
「ここ、どこなんだ」
ベッドの下から出て部屋を見渡す。
全く心当たりがない。
「……あれ?」
そういえば今まで僕はどこに住んでいたのだろう。
全く思い出せない。それどころか
「自分の名前もわからん」
これ、かなりやばくないか。
「焦るな、よく考えるんだ」
まずどうして覚えてないか考えてみよう。
立ってみるに身長は170くらいと推測される。
肉付きも加えると高校生くらいだろう。
よって生まれたばかりだから記憶がないという可能性はない。
ゆえに何らかの要因で記憶を失ったというほうが自然である。
……そういえば起きた場所ベッドの下だったな。
ベッドの下で寝る人は早々居ないだろう。
「ベッドから落ちたのが原因かなあ」
そう呟くと突然インターホンがなった。
何か出てはいけない気がしてベッドに座り込む。
「そういえばここアパートみたいだな」
ベランダから外を見渡す。下を見るにここは二階だろうか。
「おはよう、ちひろくん」
「え、ど、どちら様ですか」
右の防火扉の向こうからあいさつされた。
「ひ、人違いです。それとおはよう」
「人違いって。あはは、ちひろくんってば朝から冗談やめてよ」
「僕、チヒロって言うんですか」
「ん?そうだよ。保科 智広、高校二年生。私と同じクラスで……恋人同士」
「なるほど……って恋人?」
「恋人」
「まじか。全く覚えていない」
「うそ、冗談だよね?」
「ほんと。自分の名前さえ覚えてないよ」
「もしかしてイヴの夜も花火大会の夜も覚えてなかったり?」
「……うん」
「むすっ」
今明らかにむすって言ったよね。
「ごめん。ほんとに覚えてなくてさ」
「……じゃあこれからずっと一緒に居て。もう私のこと忘れたりさせないから」
「え、えーっと」
返事に迷う。我ながら魅力的な彼女を選んだものだ。(顔見てないけど)
「あれ?そういえば名前知らないじゃん」
「えっ。彼女の名前も覚えてないの?それは流石に酷すぎるよ」
「……ごめん」
「もう。私は立花 楓。前と同じように楓って呼んでくれるとうれしいな」
「そっか。ありがとう、楓」
「じゃあ私支度してくる。今日は連休明けだからいきなり遅刻とか駄目だからね」
「あっ他にも聞きたいことが」
「それなら一緒に登校しながらしよっか。じゃあまたあとでね」
行ってしまった。僕も支度しよ。
玄関を出ると目の前に体育座りした少女が居た。
少女は僕と目が合うと胸に飛び込んできた。
「ひさしぶり!ちひろ」
「えっと……楓?」
「え?楓って誰のこと?私は寧々だよ」
「ネネ……?」
「もしかして覚えてないの?ほら、中学のとき転校して東京に行った可愛い幼馴染兼彼女」
「全く」
「……薄情者」
脇腹を強くつねられる。かなり痛い。
「私、東京へ行ってからちひろのこと忘れたことなかったのに。そんなの……」
「って今彼女って言った?僕彼女もう居るみたいなんだけど」
「え、嘘。嘘だよ。そんなの」
「いやほんとに」
「嘘だ!!」
寧々の声が外に響きわたる。それから数秒
「ちひろ……くん?」
左から名前が呼ばれる。
「か、楓?」
「おはよう。ちひろくん朝から浮気なんていい度胸だね」
笑っているが額に血管が浮いている。
「……浮気?私とちひろは付き合ってるの。変なこと言わないで」
寧々が間髪入れずに言い返す。
「それは違うよ。だって私がちひろくんの正真正銘の彼女なんだから」
楓と寧々が睨みあう。僕が浮気してたとか……ないよね?
御井 深美っていいます。時間があるときに書いていこうかなって思います。適当によろしくお願いします。