ミノさんはなんか違う2
市役所横の図書館に入るとすぐに女性が近づいてきた。
「んん?」
「右の歴史書の棚を左です」
女性はそれだけ言うと去っていった。
「な、なに?」
ウカが疑問を持ったところでリガノが説明を始めた。
「あれが天記神の人形で誘導係。人間には見えない存在のようだ」
「ふぅん。で、右の歴史書の棚を左?」
「天記神の図書館に繋がる場所だよ、ウカちゃん」
ミタマに言われ、ウカは再びてきとうに相槌を打った。
「俺なんて場違いもいいとこだぜ」
ミノさんがはにかみ、稲荷一同もはにかんだ。
「ま、まあ、うちらだってほら、本読むように見える?」
「見えないよ。皆、神々用図書館を知らなかったじゃないか。リガノなんて検索してたし」
ミタマにつっこまれたリガノは肩身狭そうに下を向く。
「本読まないうちらが図書館行って何すんだよ、って話になるよね」
ウカはうんざりしながら歴史書が連なる本棚を左に曲がった。ここは市の図書館でわりと広いが目の前にあるはずのない空間が見えた。おそらく、人間には見えない。ここはただの壁だ。
「あれか。霊的空間は……」
霊的空間に入ると本棚が一つになり、下の方に真っ白な本が置いてあった。
「これだけしか本がない」
「開いたら天記神の図書館に行けるんだってさ」
ミタマがそう言い、ウカはまたてきとうに返事をすると本を開いた。
白い光に包まれ、ウカ達はその場から消えた。
気がつくと森の中に立っていた。霧が立ち込めている森だ。季節はなさそうで、気温も暑くも寒くもない。
「え、ここどこ?」
ウカがあたりを見回して尋ねる。
「ここは図書館の庭みたいなとこだ」
ふと、今いる男性陣ではない男の声がした。
「あっ!」
ミタマが反応し、リガノやミノさんも声をあげた。
霧深い道から現れたのは赤い髪の青年だった。
「あ、紅雷王様! なんでこちらに?」
ウカが恐る恐る尋ねると、赤い髪の青年はため息をついた。
「俺は時神未来神だ。未来を見てきた。時神過去神の栄次に教えてもらえば良かったのに、わざわざ図書館までこなくても良かったんじゃね?」
「ま、まあ、確かに……。てか、なんでうちらの行動なんか未来で見て来たの?」
ウカが怯えつつ尋ね、紅雷王、通称プラズマが腕を組むと答えた。
「日穀信智神の過去を調べたいんだろ? 太陽神に近しい。だから俺がついていく」
「ま、まあ、よくわかんないんだけど、調べるだけだよ?」
「ウカノミタマの派系がミノさんの疑問に気がついたのなら、それはそれでいいことかなと」
「どういうこと?」
ウカは眉を寄せたが、プラズマは稲荷一同を霧深い森の中へと促した。
ウカ達はよくわからないままプラズマについていく。しばらく視界の悪い森を歩くと明治時代にありそうな洋風作りの建物があった。
「あれだよ、図書館」
ミタマがプラズマを警戒しつつ、ウカに耳打ちする。
「あれか……。わりと新しい感じに見えるんだけど」
ウカのつぶやきに今度はリガノが答えた。
「あれは、昔からあるようだぞ。昔から変わらない……。ここは霊的な者が住む弐の世界の先端で過去、現代、未来でもあり、そのすべてがない。異空間だ。だからあの建物へ、もっと前の時代からも、未来の時代からも図書館のようなものがあれば簡単に来れるわけだ。だから、普遍で新しく見える。ここには時間がない」
「……時間が……ない? ここにいる図書の神は……おかしくならないの?」
ウカは少しせつなげに建物を仰いだ。
「うちらは神でデータだけれど、まわりの時間は過ぎる環境にいる。人は老いるし、時代も変わる。愚かな歴史もある。だけど、ここは外の時間すらもわからない環境……。そういうデータを持っているのかも」
ミタマがウカの肩を優しく叩くと横に置いてある棚にあった数々の盆栽を指差した。書庫の神とやらの私物なのだろうか?
「ほら、盆栽は……永遠に変わらない。ここの盆栽は……たぶん、手入れしなくてもこのまま……」
「ウカ、ミタマ、リガノ……」
プラズマが図書館への扉を開けるのを眺めながらミノさんが口を開いた。
「ここにいる神……この空間から出られないようにされていないか? 強い結界のにおいがする」
「え? ここから出られないなんておかしくなりそう……。空が見えないよ」
ウカが心配そうに答え、ミノさんは珍しく何かを考えるそぶりを見せていた。
とりあえず、プラズマに促されたので図書館に入った。




