41話
結果から言うと、メテオーラが用事のために出かけた時間がロスになることはなかった。
吹雪の中メテオーラが帰ってきても、セナはまだ眠りから覚めていなかったのだ。
防寒服で着ぶくれしている体のまま、メテオーラはセナの枕元に近づく。
「わかっていたことですが、体力の消耗が予想以上に激しいですね」
セナの額に自らの額を押し当てて熱を測ってから、布団を剥がして足の様子を見る。
「それにこの足では、歩くことは覚束ないでしょう」
「ひどい……どうして言ってくれなかったの」
イーリスの眉が歪むのも無理はない。真っ先に目に付くのは両足の親指の爪が剥がれてなくなっていることだが、足の裏も酷い。潰れた豆の下にまた豆ができて、それもまた潰れて、というのを繰り返したのだろう。足の裏全体がじゅくじゅくになっている。
と、セナが薄く目を開き、か細い声を漏らした。
「ごめんなさい……私のことはいいから、早くお兄ちゃんの所へ行ってあげてください」
意識を取り戻したばかりのセナの手を取って、メテオーラは首を振る。
「いいえ、ここにはもう戻らないことに決まりました。だから、酷なことを言っていることは承知の上で言います。セナさん、私たちと一緒に、今からサルに帰りますよ」
「私、足手纏いになっちゃう」
絞り出すような声と共に、セナの瞳から一筋の涙が流れる。
「私に背負わせてくださいな。セナさんを無事にサルまで連れて帰ると誓いましょう」
メテオーラは片手を胸に当てて黙礼し、セナに誓いを立てた。それを見たセナは、二の腕で顔を覆った。
「ごめんなさい」
「セナさんは息子のために、遙々ここまで来てくださったのです、謝るべきは、セナさんにこんなに辛い思いをさせてしまった私の方です」
そう言って頭を下げるメテオーラを見ることもできず、セナは唇を噛みしめた。
どうにも湿っぽいのは苦手だ。おいらはつい、口を挟んでしまう。
「セナは背負って行くって決まったんだよな。じゃ、早いとこ支度して出発しようぜ。一日遅れの上に天候は最悪なんだ、のんびりしている暇はねぇ」
イーリスとメテオーラは頷きと共に行動を開始する。と言っても、イーリスは既に荷物をまとめていたので、あとはセナの荷物や服装を整えるだけだ。
「メテオーラさん、荷物はわたしが持つよ!」
言いながらメテオーラのリュックを持ち上げたイーリスだったが、その軽さに目を丸くする。
「こんなに少なくていいの?」
「着替えや食器、火興しの道具も置いていきます。とにかく、期日までに生きてサルに辿り着ければそれでいい。そういう気構えで挑みます」
メテオーラの意気込みに、さすがのイーリスも尻込みする。
「そ、そうなんだ。アメちゃんくらいはあげるからね」
「ありがとうございます。それでは、出発しましょうか」
防寒対策ばっちりでセナを背負ったメテオーラが扉を開けるのと同時に、イーリスはおいらを口の中に放り込んだ。
小休止は、ここまでだ。