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女神に電話をかけてみた

作者: なかつかさ

声劇用の台本です。

男女比は、1:1です。

かなり、だらっとした作品です。

男が関西弁を話すことに、特に深い意味はありません。

どうぞ遠慮なくご利用ください。

男 「あ、もしもし」


女 「(欠伸して)……はい、もしもし」


男 「あの、すいません。女神さんのスマホでよろしいですか?」


女 「(眠そうに)そうですけど、どちら様ですか?」


男 「お休みのところすいません。えっと、この前っていうか昨日なんですけど、あの、なんでしたっけ、輪廻りんねの部屋……でしたっけ? そこで話させてもらってた……」


女 「(思い出しながら)ああ、たしか、ケンイチくん……だっけ?」


男 「あ、いや、僕は吉田直正よしだただまさっていうもんですけど」


女 「(まだ眠そう)吉田直正さん……? うーん……こう言っちゃなんだけど、ケンイチくんと違って、いまひとつ情熱に欠ける名前ね。なんだか、とても平凡なにおいがするわ。平凡と何かを掛け算したら、あなたみたいな名前が答えとしてでてくるみたいな、そういう平凡さを感じるわね」


男 「ちょっと言ってる意味がよくわからないですけど、ケンイチと直正ってそんな距離感あります? どっちもどっちという気がしないでもないですけど」


女 「(また欠伸して)……で、その吉田直正さんが私に何の用?」


男 「ああ……あの、ちょっとその前に聞いときたいんですけど、女神さんって僕のこと覚えてはりますか」


女 「はあ? ちょっとあなた、何言っちゃってんの? ていうか、誰にその言葉吐いてんのよ。よく吐けたもんだわね。私を誰だと思ってるの? 女神様よ? 美しくも尊く外界を管理・調整し、悪事を憎み、ときには裁きを下し、良識ある人たちにはこっそりとお金をばら撒くといった荒業もこなす善行まみれの女神様なのよ? そんな完全無欠の私が、そうイージーに記憶を失うとでも思ってるわけ? あり得ないから、そんな愚行。忘れるって単語すら忘れてしまうくらい、忘れるなんてことはあり得ないから。そこんとこ、ちゃんとわかったうえで発言してほしいものだわ。まったく、最近の人間ときたら……」


男 「金をばら撒くってなんか……」


女 「何よ。文句あるの?」


男 「いや、まあ、それは別にいいんですけど、女神さんが僕のこと覚えてへんようやったら話が進まんっていうか、また一から説明せなあかんのかなと思って」


女 「だからちゃんと覚えてるわよ。借金苦で自殺した吉田さんでしょ?」


男 「ちゃいますよ。それ、どの吉田さんですか? 僕はあれですよ、女神さんに昨日の夜いきなり――」


女 「え、嘘? ちょっと待って! もしかして私、またなんかやらかしちゃった? っていうか、あなたって今、年いくつだっけ?」


男 「今年で31になりましたけど、それがどうかしました?」


女 「あっちゃー、まじかあ。またやってしまったかあ。うっわー、どうしよう、嘘でしょ。あっれー、私、基本相手選ぶほうなんだけどなあ。まあ、たしかに最近溜まってたからなあ。おっさんでも、ま、いっかみたいなノリで手ぇ出しちゃったか、ついに……」


男 「おっさんって……いや、まあ、おっさんやけど」


女 「ええー、でも私、ほんとおっさんとか趣味じゃないんだけどなあ。だめだー、真面目に酒の量減らさないと、このままだといつか取り返しのつかないことになりそうだわーマジで。うっわーどうしよー、でも飲めないのもつれええええ。我慢できんのか、私? いや、無理でしょー。我慢なんて生まれてこの方したことないし。あー、どうしよーマジやっちまったわー」


男 「あの、えっと……」


女 「あ、ごめんなさい。ほんのりと、取り乱しちゃったわ……それでなんだっけ? 慰謝料を請求したいとかそういうこと?」


男 「慰謝料?」


女 「女神から慰謝料を請求ってのも前代未聞っていうか、さすがは関西人ね。金にがめついというか、強欲というか……ってごめん。こっちが全面的に悪いんだけどさ、なんかね、言葉が勝手に洩れちゃったっていうか。で、なんだっけ? ああ、そっか。まあ、要は訴えたいとか、責任取れとかそういう話だよね」


男 「……何の話ですか?」


女 「え?」


男 「女神さんって職権乱用的に、普段からそういうことしてるんですか?」


女 「え、ちょっと待って。話がぜんぜん見えてこないんだけど……ていうか、あなた、いったい誰なの?」


男 「いや、だから吉田直正ですけど」


女 「ミドルネームは?」


男 「ああ、ミドルネーム込みやと、吉田メタルギアソリッド直正ですけど」


女 「思い出した。先日、自宅で謎の死を遂げた漫画家の人」


男 「いや、それもちゃう人ですよ。漫画とか描いたことないから。ていうか、女神さん、ほんまに僕のこと覚えてくれてないんですか?」


女 「ちょっと待って。なんか今、記憶の片隅からいい具合に洩れてきそうな気配が漂ってるから……メタルギア……関西弁……今年31の、私の好みから相当外れるおっさん……大塚明夫……」


男 「言うとくけど、大塚明夫ではないで?」


女 「そんなのわかってるわよ。あなた、あれでしょ? たしか……太ってさえいなければ若くなくてもいいから、とにかく女の人のパンチラが死ぬほど好きな素人童貞のおっさんだったわよね」


男 「正確にいうと、パンチラじゃなくてパンモロが好きな素人童貞のおっさんですけど」


女 「え、その違いって重要?」


男 「まあ、わりと」


女 「(神妙になって)ていうかさ、本格的に思い出しつつあるんだけど」


男 「(ぼそっと)まだ思い出しきってないんかいな」


女 「吉田さんってもしかして……いや、もしかしてじゃなくてほぼ確実に、私が……間違って殺しちゃった人だよね」


男 「やっと思い出してもらえました? ちなみに、ほぼ、ではなく確実にそうですね。っていうふうに昨日、輪廻の部屋ってとこに呼び出されるかたちになって、そこで女神さんはそう僕に説明してました」


女 「そうだ……そうだよ。私、殺しちゃったんだ。うっかりミスして、死ななくてよかった人を……なんか真面目にへこむわ。慰謝料請求どころの話じゃなかったわね(ため息)……女神やめよっかな、わりとマジで。私、向いてないよね? こういう仕事。ていうか職業? あなたもそう思うでしょ」


男 「いや、そのへんに関しては、僕からは何とも言えないですけど」


女 「爆発死だっけ?」


男 「え?」


女 「その……爆発させちゃったんだよね? どっかーんって。私が吉田さんを、木っ端微塵のチリヂリにしちゃったんだよね」


男 「っていう話も、女神さんが昨日してました。僕自身はそのへんの記憶がないんで、正直あんまよくわかってないんですけど」


女 「それで殺されたことに対してどうしても納得いかないってことで、改めて今、私に電話かけてきてるってこと?」


男 「いや、殺されたんはもう別にええかなっていうか、特に気にしてないんですよ。あのまま生きてても、どうせろくな人生歩んでなかったやろうし」


女 「あなた、その辺けっこうさばけた性格してるのね」


男 「まあ、それはいいんですけど……女神さん、昨日言うてくれたやないですか」


女 「え、何を?」


男 「殺してしまったお詫びに、私の裁量で異世界に転生させたげるって」


女 「ああ、言ったっけ? 言った……かな? うん、何となく言った気がする」


男 「言うた気がするて。気だけかいな」


女 「それでちゃんと異世界には転生できたの?」


男 「あ、そこは大丈夫です。ちゃんとできてると思います。魔法とかも使えてますしね。って、今普通に言うてますけど、最初はやっぱりびっくりしましたよ。指の先から火が噴きでてるやんみたいなね、嘘やろみたいな。昨日のこともあって夢やろ思たけど、ほっぺたつねるとちゃんと痛いし、夢にしては何もかもがリアリティありすぎるし、現実のことなんかなって認識が不思議なくらいしっかりとあって、それがまた変な感じするっていうか」


女 「いいのか悪いのかわかんないけど、一応、ちゃんと現実だからね」


男 「まあ、そうなんでしょうね」


女 「うん」


男 「あ、で、いいかげん本題に入ろうと思うんですけど……いいですか?」


女 「どうぞ」


男 「……あの、僕、おっさんのままなんですよね」


女 「おっさんのまま? ……って、何の話?」


男 「(ため息)やっぱり女神さん覚えてくれてないんやなあ」


女 「え……私、あなたを殺した以外にも何かやらかした?」


男 「いや、別にやらかしたわけじゃないけど、あ、でもある意味やらかしてるのかな。女神さんが言うてたことと、現状があまりにもかけ離れてる感じにはなってもうてるから」


女 「え、なになに? 話がぜんぜん見えてこないんだけど」


男 「まあ、一応説明させてもらうと、僕、今、ほんま見事ってくらいの中世っぽさ丸出しの街にいて、で、ここに転生されたときはもうすでに夜やったから、とりあえずどっか泊まらな思って、安宿に泊まることにしたんですよ」


女 「お金は持ってたの?」


男 「あ、お金はなんかポケットに小銭が入ってて、それでぜんぜん事足りました」


女 「そう。よかったじゃない」


男 「ええ、まあ、お金はね。で、昨夜ゆうべはぐったりしてたから宿に着くなり、すぐ寝てもうたんですよ。疲れてたんかどうかわからないんですけど。それで寝て、起きて、あ、その前にさっき話した指から火やら水をだしたりして魔法使えるやんみたいなことも確認したりしてたんですけど、まあ、そっからっすよ。問題は。起きて、歯を磨こう思て、洗面所に行ったわけですよ。で、鏡見たわけですよ。そこに何が映り込んでた思います?」


女 「何がって、そりゃ吉田さんの顔でしょ」


男 「そう、僕の顔が映ってた。そのまんまの、おっさんのままの僕がね」


女 「別にそれって普通のことだと思うけど、何か問題でもあったの?」


男 「女神さん、ほんまに覚えてないんですか? 昨日、僕に言うたこと」


女 「あなたを輪廻の部屋に呼びだして、間違って殺してしまったことの説明でしょ。それでお詫びにってことで異世界に転生させるって言ったことでしょ。そのへんはちゃんと覚えてるわよ、っていうか、今さっき思い出したって感じではあるけれど」


男 「あかん、やっぱり一番大事なとこ忘れてるわ」


女 「一番大事なとこ?」


男 「女神さん言うてましたやん。殺してしまったお詫びに異世界転生って話になったときに、僕ふだんゲームとかアニメにあんま触れる機会ないせいか、異世界とかピンと来んみたいなことを言うたら、じゃあ、異世界転生プラス僕の容姿いうか肉体そのものを美少女に性転換してあげるから、それで手打ちにしましょうみたいな話になって、そういうことなら僕もやぶさかでないなってことで了承・納得して……で、意気揚々とこっちの世界に飛ばされたと思ったら……」


女 「おっさんのままだったと……」


男 「今もこの電話、鏡見ながらしてるんですけど、写真撮って送りましょか? ほんまに女神さんが想像してる以上におっさんですよ。ってまあ、もともと僕自身おっさんやけど、こっち来てさらにおっさん具合が進化っていうか加速してもうてるっていうか。そこはだめでしょ、加速させたら。逆いってもらわんと。ていうか、美少女って話はどないなってんっていう、そこですよ。その一点ですよ。僕が言いたいことは」


女 「おっさん風の美少女とかじゃなくて?」


男 「どういうことやねん、それ。おっさん風って時点で美少女からはかけ離れてるでしょ。美少女どころか、ただの女としてもあかんやろ、おっさん風味とか」


女 「あなた、さっきからえらく美少女にこだわっているようだけど、そんなに美少女になりたいの?」


男 「いや、なりたいっていうか、なんていうんやろ……」


女 「はっきりしなさいよ」


男 「まあ、なりたいです」


女 「サイッテー。ただの変態じゃないの」


男 「いや、それはだって、女神さんがやってくれるて言うたから」


女 「何、あなたが変態なのは、私のせいだって言いたいの?」


男 「そこまでは言うてないけど、僕をその気にさせたのは確実に女神さんでしょ」


女 「何よ、その気って……不気味すぎるんだけど。美少女になってどうするつもりなのよ」


男 「いや、どうするつもり言われても……」


女 「何よ、言えないわけ? あなた、もしかして美少女になって人に言えないようなことをするつもりだったの? それが目的なの?」


男 「いやいや、そんなこと誰も言うてませんやん」


女 「言わなくても声のトーンで伝わるわよ。そういう声をしてるわ。今のあなたは」


男 「どんな声やねん。ていうか、人に言えないようなことってたとえばどんなことなんですか?」


女 「そうね、たとえば……って、あなた何? 私に何を言わせようとしてるのよ。ほんと、油断も隙もあったもんじゃないわね。神聖なる女神を、安直な変態道に巻き込まないでくれる?」


男 「いや、別にそんなつもりは……」


女 「なかったの?」


男 「はあ……」


女 「ほんとに?」


男 「うーん」


女 「1ミリ足りともなかったと言い切れる?」


男 「まあ、正直いうと、1センチくらいはあったかもしれないですね」


女 「1センチも? あなた、やっぱり相当な変態ね」


男 「はあ、どうも」


女 「何がどうもよ。別に褒めてないわよ。(ため息)もう、飽きたわ。ちょっと寝てもいい?」


男 「いやいや、寝られても困るんですけど」


女 「だってもう無理だもん。おっさんのまま転生されてしまったら、どう足掻こうが、ずっとおっさんのままなの。転生後に性転換とかできないって決まりになってるから」


男 「今さらそんなん言われても、話がちゃいますやん」


女 「ごめんね。事務手続きの段階で手違いがあったんだと思うけど、転生されちゃったあとじゃ私の力でももうどうしようもないんだよね」


男 「嘘でしょ……」


女 「私、あともうひとつ、あなたに謝らないと」


男 「なんですか?」


女 「殺しちゃって、ごめんね」


男 「……え? それだけ?」


女 「じゃあ、寝ます。おやすみなさい」


男 「え、ちょっと女神さん……嘘やろ、ほんまに切りよった」

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