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第二章 『乙女たちの騎士団結成』D

「さてと、残りは……聖術士だな」

 戦いを終えたタケミたちは草地の中庭を歩いていた。

 右にエルク、左にフェネという、男であったら両手に花であったろうが、いまではタケミもその“花”の一輪となっている状況である。

 そんな、男だったらうらやましいシチュエーション……と思われるのだが。

「むぅううう……タケミさん、ほんとーにこんなネコミミチビを騎士団に入れるんですか」

 エルクは口をニワトリのように尖がらせている。どうも、フェネが仲間となったことがずいぶん気に入らないようだ。

「エルクとか言ったか。そういうお前こそ、騎士にふさわしくないのではないか?」

「な、なぁ! 聞きましたかタケミさん! この子、ずけずけとタケミさんと私の中に入ってきた挙句、私に挨拶もなしなんて、無礼すぎませんか!」

「まぁまぁエルク。挨拶は騎士団が結成したら改めてしようじゃないか」

「そーじゃなくて、こんなネコミミチビ、きっと私たちに迷惑をかけるに決まってますよ!」

「童はネコミミチビなどではない」

 猿と犬の喧嘩みたいにエルクとフェネは不毛に言い合っていた。

(これは……明らかに仲が悪そうだが、しかし……)

 エルクと言い合う人間は、タケミを除けば初めてである。そういう意味では、エルクにとってフェネはそう悪い相手ではないだろうと安直にタケミは納得していた。

「あとは……聖術士だな」

 騎士団の仲間の最低人数は4人。そのうち一人、聖術士があるほうがいい。

 しかしタケミ、もとい、エルク、もとい、おそらくフェネにも、学園内の人脈がない。

 と、思われたのだが……

「んあ? ふぇ、フェネちゃんですかぁ――!」

 中庭向こう、『聖術士科』の観音開きの開け広げられた入口より、ふわふわとした声の主が現れる。

 白い、修道服のような、広い袖の上衣。頭に白いベール。陰ったベールの中の顔は柔らかで丸く、髪は短い金色となっている。

 そして手には銀の杖。『白魔導』という、攻撃系の『黒魔導』と対を成す『聖術』を起こすための杖である。

 無垢なる白の少女。タケミと同じくらいの背で、タケミ以上に“胸”のあるその少女は、小股でこちらへとやってくる。

(しかし、俺もエルクも聖術士科に知り合いなんか)

 そう思っていたら、

「フェネちゃーん、がしっ」

「つかまった、のじゃ」

 エルクとタケミの傍。フェネに向かってその白い聖術士は抱き着いたのだった。

「もー、フェネちゃんったら、決闘をやるっていう噂を聞いたもんだから、急いできちゃったわ」

「すまない、のじゃ」

 どこか親子のやり取りのように、フェネとその少女は話している。フェネはその聖術士のやわらかな胸に顔をうずめて、枕のように安心して身を委ねていた。

「って、あらぁ、あなたたちはぁ?」

 フェネを抱き留める少女はようやくタケミたちの存在に気づき、顔を向けた。

「俺はタケミで、ワケあってそこのフェネと決闘をしていたんだが」

「ああ、あのドラゴンを――食べた人?」

 またタケミの噂は変な方向に向かっていた。

「私は聖術士科のセレナ・オストリッチと申します」

 セレナという聖術士の生徒はタケミとエルクに対し静かに礼をする。

「それで……決闘していたと言っていましたけど」

「ああ、まぁ、俺の騎士団に入ってもらうため、フェネと決闘したわけなんだがな……」

「ほぉ……つまり、タケミさんはフェネちゃんを騎士団に入れたのですかぁ?」

 妙に物分かりよくセレナは言った。

「まぁ、結果的にそうなったわけなんだけどな」

「ほうほう……じゃあ、フェネちゃんの“幼なじみ”である私も、自動的にフェネちゃんの団に入らないといけませんねぇ」

「は……」

 セレナの取っ手付けたような物言いにタケミは首を傾げる。

「幼なじみ? あんたは、フェネの幼なじみなのか?」

「学科は違いますけどー、寮は魔導士科と聖術士科は一緒なんで、ルームメイトになってるんですよ」

「なるほど……まさか、フェネに幼なじみがいるとはな……」

 てっきり“孤独”だと思われたフェネであったが、別学科に知り合いが居たという。いわゆる腐れ縁という奴だろうか。

「というわけで、タケミさん。フェネちゃんを攫って行くのなら、私もついでにさらっていってくださいませあそばせです」

「攫うって……」

「私は、聖術士科の聖術士見習いですから、きっとみなさんのお役に立つと思います。いかかでしょうか?」

 タケミは突然の展開に動揺を隠せない。

 フェネという大物を釣り上げたら、それにつられて聖術士もついてきたもんである。一石二鳥というやつだ。

「そうだな、フェネの幼なじみというのなら、問題ないだろう」

「いや、タケミさん、この人が云々ではなく、そもそもフェネ自身がいらないと思うわけで……」

「しかしエルク、俺たちは誘うアテがないだろう?」

「それを言われるとつらいところですけど……」

 同学年の知り合いの少ないタケミとエルクにはそう打つ手が残っていないのだ。

 というわけで――

「これで4人そろったぞ! 晴れて俺たちは騎士団となったわけだ!」

「タケミさん、まだ私たちは騎士見習いだと思いますけど……」

「とにかくともに騎士の高みを目指そうではないか! 行くぞ野郎ども!」

「わ、私たちは野郎どもじゃないですよ!」

「ふふふっ、ずいぶんおもしろそうな騎士団に入れたじゃないですか、フェネちゃん」

「阿呆の集まりじゃ」

 フェネは相変わらず仏頂面を浮かべている。セレナの手に抱かれながら。

「往くぞ! 我らが――――――――っと、騎士団の名前を考えてなかったぞ」

「……………………」

 こうしてタケミの手腕と熱血により、女の子4人の騎士団が組まれることとなった。

 しかし、タケミたちはその後ある問題に直面した――


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