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第二章 『乙女たちの騎士団結成』C

 タケミは闘技場の台の上に立っていた。

 そして、どういうわけか少女、フェネとの決闘となっていた。

「た、タケミさん」

 台の下より、不安げな声を投げかけるのはエルクだった。

「魔導士と剣士が戦うなんて無謀ですよ!」

 ともっともな抗議をする。

 エルクの言うとおり、魔導士と剣士では“力”の差が絶対的に違うのだ。

 単純な体力なら、実技訓練を受けている剣士が上だろう。しかし、“魔法”の前では人は無力。火や雷、氷や岩……などを放出する魔導士の力は言うなれば科学兵器。ロケットランチャーを持った相手に剣で挑む話である。

「エルク、俺だってこの戦いは無謀だって分かっている」

「タケミさん……なら辞めましょうよ!」

「安心しろ。別に殺し合いをするわけじゃない。お互い決闘用の護符タリスマンを張っているから死ぬことはない」

 魔導の力が込められた護符により、タケミは魔導攻撃を一定の閾値まで無効化できるようになっている。

「でも、それでも怪我をしたら……」

「エルク、心配してくれてありがとうな。でもな、俺はどうもあの猫耳野郎に言い聞かせなきゃならないようだ」

「どうしてそこまで……」

「俺……いや、俺たちにとって、あいつは必要なんだ。俺たちは最強の騎士団にならなきゃならないからな」

 タケミはエルクに背を向ける。

「待っていろエルク。俺が必ず勝ってくる」

「タケミさん! が、がんばってください!」

 声援を受け、タケミは正面を向く。

 そこに、黒塗りの杖を手にしたフェネが立っている。

「オヌシは無謀じゃ。この猫頭族の童に刃向かうなど、愚かすぎる」

「じゃあ、バカがどっちか比べようぜ」

「童がバカだというのか……」

「まぁ、そんな猫耳を生やしているヤツよりかはバカじゃないと思うが」

「童の耳を愚弄するか! 散々撫でておいてぇ!」

 フェネはきりっと耳を立てる。

「じゃー双方、見合って見合って、はじめぇ!」

 と審判員として現れていたクレアの声のあと、タケミの無謀な戦いが始まる。


 魔導とは魔晶を消費する技術である。

 “攻撃用”の黒塗りの杖の先。そこには魔晶という、くすんだ赤色の、魔物の血の結晶

を固めたものを取り付ける。

 それがエネルギーとなり、“魔法”という奇跡が起こるのだそうだ。もっとも、エネルギー故魔晶はその都度取り換える必要はあるのだが。

「集え燐火。燃えよ――火焔球フレアボール

 タケミのもとに炎の球が馳せる。

 しかし、タケミはすでにその炎の球の軌跡を分かっていた。

 ただ半歩。

 タケミが動いたかどうかさえ、タケミをじっと見ていたエルクでさえも分からないくらい素早く、タケミは動いていた。

 その横を、火焔球が通り過ぎる。

「まさしく、“止まって見える”ってやつだな」

「なっ……」

「そんなちんたら詠唱なんかしている間に、お前の狙いはバレてしまうんだよ。オマエの杖の狙いから、僅かに俺が動けばいいだけだ。いかにお前が強くとも、動いている的をそうたやすく打てないだろう?」

「タケミ……ファルコナー、キサマっ!」

 フェネはすかさず杖を構えなおし、二発目の火焔球を放つ。

 しかしそれもタケミの俊敏な動きによって躱される。

「ちぃ、この、この、ちょこまかと!」

「全然当たんねぇぞ!」

 タケミはフェネを挑発するように右へ左へと縦横無尽に動いている。相手にその動きが読まれないよう、できるだけ乱数的に、とっちらかったような感じでフェネを中心に円を描くように動いている。

 タケミのその機敏な動きの秘密は“すり足”という剣道における足の運びにある。足を擦るように動かし、足が動いたのかどうか傍から見てもわからないくらいの速さを――タケミは転生する前からすでに習得していたのだ。

 その結果、台の上は火焔球を受けてクロコゲとなっていた。その周りの場外の草地もコゲコゲである。

「わわわわっ……。闘技場がこんなにクロコゲなのに……タケミさん、まだ無傷だなんて……」

 その事実にエルクは少し安堵する。

 しかし、タケミはまだフェネに対し攻撃らしい攻撃はできていない。フェネの攻撃をただ避けたに過ぎないのだ。

「オヌシ……剣士のくせに、斬りかからんのか」

「そっちこそ、本気でかかってきたらどうだ?」

 タケミはあくまでフェネを煽る。

 頭に来たフェネは、耳を立てて、タケミの赤い目を見据える。

「オヌシのような愚か者に、童の力を見せてやる」

 ぶん、と杖を振り下ろし――

「焼き葬れ火の手――火葬炎クリメイション

 タケミは同じような動作でその魔法を受け流そうとしたが――

(これはっ……)

 杖より放たれる炎は、放射線状に広がっていた。

 それはさきほどの火焔球のような“球”ではなく。

 言うなれば“火炎放射”であった。

「やばっ!」

「タケミさん!」

 正面より押し寄せる炎の波。それに対し、タケミは背を向けて駆けるしかできなかった。

「あっ……ぐぅ……」

 タケミは憔悴しきっていた。制服は黒焦げ、白い肌もいくらか腫れを帯びている。

 呼吸の周期も短く、その姿は――“女の子”という姿もあってか、弱弱しく見える。

 とても、戦える様子ではない。

「なんとか、皮一枚で躱せたようじゃがのぉ」

 あきれ顔を浮かべる魔導士のフェネは、ただタケミに対し杖を向けている。

「こんな茶番はもう仕舞にしよう。剣士科の最強と聞いておったが、所詮は人の子、童に勝てんようじゃな」

「そうだな……俺も犬耳ぐらい装備してくるんだったな」

「そんなもの装備してももう遅いわ」

 明らかにタケミは終わっていた。

 誰もがそう思っていた。

「タケミさん! はやく降参してください!」

「あー、タケミちゃんボロッボロだねぇ」

 そんなあきらめムードの中、断罪者のごとく冷酷に杖を向けるフェネ。

 しかし、その杖の先は――

(むっ……)

 魔晶の赤が消えていた。

 フェネはいつもの動作で、魔力の消えた魔晶を交換しようと、杖の先を手元へと回した――

 その瞬間――

「――――」

「はっ」

 風が馳せた。

 灰のように燻ぶっていたタケミ。それが風でかき消えたみたいに、一瞬にして移動した。

 要は、さきほど炎の魔法を受けて燻ぶっていたのは――タケミの“狸寝入り”だったのだ。

 ただタケミは初めから狙っていたのだ。

 魔導士の弱点を。

 魔導士は魔法を発動する際、詠唱を必要とする。そして魔晶を必要とする。

 その魔晶は消耗品。

 ならば――

(その魔晶の“装填”に時間がかかるはずだっ!)

 拳銃と同じだ。拳銃もいくらか弾を撃つと、なくなった分弾を装填しなければならない。

 そのぶんの遅延ラグがある。

「お前が魔晶を装填している間に、お前を斬ればいいだけだ!」

「んな――そんなわずかな時間で童に到達できるなど」

 そんな言葉の間に――

 タケミの剣はすでに到達していた。フェネの首へとその切っ先が当たる。

「なん……じゃと……」

 フェネは気絶した。


「む……ぅ……」

 フェネは起き上がる。

 その正面に、どういうわけかタケミがいた。

「オヌシ……」

「どうだ。これで俺の勝ちだ」

 フェネは負けた。

 己の力の傲慢さに溺れ、敗北したのだ。

(童も……祖先たちと同じだというのか……。力に溺れた、愚か者だと……)

 孤独に生きてきたフェネは、ただ静かに項垂れていた。

「これでわかっただろう、お前に足りないものが」

「童は……足りなかったのか。力が……」

 そう言ったフェネに対し、タケミは首を振る。

「ちがう。お前には、お前を支える仲間がいなかったんだ。いかにお前が魔導士として強くとも、魔導士には魔導士なりの弱点がある。それは、俺たち剣士見習いも同じだ。俺たちの力は魔導を扱うお前たちには及ばない。今回、俺が勝てたのも運が良かったからだ。お前が替えの杖でも持っていて、装填なしで魔法を発現していたなら、返り討ちになっていたし」

「しかし、童は負けた」

「そうだ。だから俺の騎士団に入れ」

 タケミは強くそう言った。

「魔導士と剣士がコンビを組めば、お互いの弱点はカバーできる。そのために魔導士科と剣士科が同じ学園内にあるんだろ? なら、ともに戦おうではないか」

「オヌシ……」

「オヌシ、じゃない。俺はタケミ・ファルコナーだ」

 タケミに抱き留められた、小さなフェネ。このときのフェネはただ子供のようにタケミの腕の中でぼんやりとしていた。

「約束は約束……じゃな。タケミよ、そこまで言うなら童とともに行こうではないか。騎士の高みというやつを、目指してやらんでもない」

「相変わらず傲岸不遜な物言いだな。まぁいい。これでお前は俺たちの騎士団の仲間だ!」

 タケミはフェネに笑顔を向ける。対するフェネはピクピクと頭の耳を揺らしている。

「タケミよ。そろそろ童を離さんかの。動けんではないか」

「なんだよ。そんなに苦しいのか」

「いや、オヌシの胸が苦しい」

「む、胸だと……」

 どうもタケミはフェネを自身の胸でぎゅうと圧迫していたようだ。

「す、すまない……」

「謝罪の意があるなら、その胸をへこませるがいい」

「そうできるならそうしたいさ!」

 そんなふうにしまりのない終わり方となった、魔導士と剣士の決闘であった。

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