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第一章 『決闘は婚活のもと』C

 タケミは女である。

 転生する前は男であったにしろ、今は女である。

 タケミは学年一の剣の腕と、学力を持ち合わせている。まさに文武両道と言った感じだが、それに加えて……タケミはスタイルがいいのだ。

 日々の朝練ともともとの体質によって完璧に作り上げられた、タケミという“肉体”。

 身長180。高身長だがガリガリというわけではない。体重は意外とある。そのくせ外見では太っている様子はない。それもそのはず、タケミはいわゆる細マッチョ。細くてマッチョ。タケミの体重はすべて硬い筋肉に変換されている。(一部胸にもだが)

 つまりは腹筋が割れている。

 なんにせよタケミはスレンダー。そして肌も白く、髪も長い。目鼻立ちも整っているという。タケミはいわばアスリート系の美人なのだ。

 まぁ、もともと男なのだが。

 しかし、そんな高ステータスな容姿を持ち合わせたがためにタケミは、ある問題を抱えていた。


「オイラと結婚してくれぇえええええええええええ!」

「断るッ!」

 言葉とともに剣を振るう。

 タケミのロングソードはひゅんと風を斬ったあと、突撃してきた男子生徒の首へ鈍くヒット。そのまま男子生徒は気を失ってふらふらと倒れ込む。

 タケミは暴漢に襲われた……わけではない。

(なぜだなぜだなぜだ! せっかく女に生まれ変わったというのに、俺はモテてしまうんだぁああああああああああ!)

 タケミがいるのは学園の中庭に位置する闘技場。その中央に設けられた、正方形状の大理石造りの台の上で勝ち抜け戦の決闘が行われていた。ものの数秒で決着はついたが。

 タケミの向かいの台の端の向こうには、ずらりと男子生徒たちが列を作っている。

 いまは訓練中であるが、どういうわけかタケミと男子生徒たちの勝ち抜け戦となっている。

「スゲーなファルコナーの娘! 親父さん孫が視れなくて泣いちゃうんじゃねぇーのか?」

 そう軽い口調で言い放つのは、教官であるクレア。どうもタケミの育て親、カイの昔馴染みで、カイ以上に気さくな元女騎士である。

「教官、こんなふざけたコト、やっていいんですか?」

「いいじゃねーか。オトコたちもタケミちゃんに鍛えられた方が強くなるだろうし」

「俺には男子どもをなぶる趣味はないぞ」

 ことのいきさつはこうである。

 この時間、タケミの1学年の剣士科の生徒は、男剣士科と女剣士科混合で訓練を行うことになっている。普段は授業は男女別れて行うが、訓練の場合はお互いの技量を確かめ合うためにも、ときおり混合の訓練が催されているそうな。

 で、その“授業”であるが。

 男女混合で決闘を行う課題となったのだが、タケミは――まるでアイドルの握手会よろしく、多数の男子生徒から決闘を申し込まれたのだ。

 それを面白がった教官クレアが『なら勝ち抜け戦にして、タケミちゃんが負けちゃったらその相手の男の言うことを一個聞くってのはどう?』と教育者らしからぬ、バラエティ番組的な提案をしたのだ。

 タケミはもちろんそんな提案願い下げであったが、相手は教官。一生徒であるタケミはなすがまま、そんなキチクな提案に乗せられ、勝ち抜け戦をやらされたのだ。


 剣士科1年の男子の数は50人である。

 その50人のうちの、決闘を申し込んできた30人と戦い、勝ち残らなければタケミに明日はない。負ければなにか一つ相手の言うことを聞かなければならないという、タケミだけにしかリスクのない酷い条件となっている。

 しかも――

「ワッシとお付き合いを――」

「だから断ると言ってる!」

 タケミに決闘を申し込む相手全員がタケミに交際、果ては結婚を申し込んでくる始末である。

「まったく、なぜだ……。女なら俺以外にもいるだろうが! なぜ俺限定なんだ! なんで俺が男に好かれなきゃならんのだぁ!」

「た、タケミさん……」

 絶叫するタケミの姿をエルクは険しい表情で眺めていた。

「タケミちゃん、男ってのを分かってないねー」

 と軽い感じでクレアが答える。

「タケミちゃんが男に好かれるのは強いからだよ。弱い女の子じゃ、そもそも決闘を申し込まれない。弱い者いじめになっちゃうしな。しかしタケミちゃんはその点最強じゃん。女相手でも、強いタケミちゃんはもう女の枠を越えちゃってるから、決闘してもイイってわけさ」

「腑に落ちん理由だな……」

「女心が傷ついちゃったかな?」

「そういうわけではないんだがな……」

 要は決闘に挑む男たちは度胸試しをしているのだ。

 タケミの剣の腕は知れ渡っている。入学したとき、木刀でドラゴンを倒したことをきっかけにうわさが広がった。ドラゴンを倒したと言っても小型のものだったのだが、それは尾ひれを付けて広がり、『素手でドラゴンを絞めた』なんて話に発展してしまったそうな。

 しかしタケミの剣の腕は実際、そんな噂に見合うほどのものだった。それは日々の鍛錬と精神力によるものだ。

 そしてタケミは効率がいいのだ。具体的には鍛錬の効率がいい。この学園において“鍛錬”のためのマニュアルなんてものはない。ただ馬鹿正直に死ぬまで走り込みをしたり、素振りをしたりと……ずいぶん前時代的な考えで成り立っている。

 その点、タケミには21世紀の進んだ知識がある。筋肉のつけ方も、適度な休息が必要であることを知っている。激しい運動で体を壊さないように調整が必要なことも知っている。そして柔軟な発想がタケミの強さを作り上げていった。

(なんにせよ、“偶然”ここまで来たようなものだがな)

 そして行き着いた果てが『男子生徒たちからの猛烈なプロポーズ』である。

 男からのプロポーズがイヤで女になりたいと思っていたタケミが、こんな状況になるとは人生狂いっぱなしである。

「とにかく、勝ち抜かねぇと俺に明日がねぇ!」

「タケミちゃん、あなたもしかして……オトコより女が好きとかってあるの?」

「なっ……!?」

 クレアの問いにタケミは息を詰まらせた。

 男子生徒、および女子生徒がひそひそと囁き合う。どうもタケミのあらぬ噂について盛り上がっているのだろう。

「た、タケミさんどういうことなんですか!」

 妙に食い気味でエルクが尋ねる。

「い、いや俺はそんな……」

「私はべつに、その、タケミさんが女の子のほうが好きでも、軽蔑しませんから! むしろよろこんでお付き合いを――」

「待て早とちりするな! いや、俺は確かに選ぶなら女だが……」

「やっぱり女の子が好きなのー」

「そりゃ、以前はそうだったが……」

 というより、今もタケミは恋愛対象とするなら女がいいと思っている。なにせ心は男なため、どう逆立ちしても男にプロポーズされるのはイヤみたいだ。

「お、男だとか女だとか、今の俺にはどっちでもいい!」

「なるほどー男でも女でも両方オッケーだと」

「そういう意味ではない!!」

 タケミはぶん、と剣を振り否定を示す。

「さ、さぁ次のヤツかかってこい!」

 男子生徒に対しタケミは剣の切っ先を向けた。男子生徒は一様に青ざめた。


 生徒同士の“決闘”においては『霧の剣』という魔剣が使われる。

 霧の剣は魔法効果が付与された剣で、その剣で相手を斬っても相手は傷つかない。霧のように剣がすり抜けてしまうのだ。

 要は剣道でいうところの『袋竹刀』のようなもの。剣が肌に当たると相手は数秒間気絶する。そんな平和な決闘に都合の良い代物である。

 タケミはロングソード状の霧の剣を手に、男子生徒を切り捨てていく。

 タケミはどうもこの世界の剣術には呆れていた。

 生徒たちは教官や教本どおりの、形通りの剣を振るってばかりいる。そこにはフェイントや掛け技などの技法はなく、ただ猪突猛進に剣を振るばかり。相手が知能の弱い魔物ならその手は有効かもしれないが、形通りの動きなど、百戦錬磨のタケミには手ぬるすぎる。

(日本の剣術にも、示現流っていう考えなしの先手必勝の流派ってのがあるけど、あれも考えられた剣術だし……)

 要は『考える』か『考えない』かの違い。

 要は……タケミに負けた男子生徒の全員、バカだったのだ。

 突っ込んでくる相手の胴に剣を入れ、大振りをしてくる相手は一歩下がって躱し、すかさず足を踏み込み頭を叩き、ときにはこっちが仕掛けて、驚いたスキに剣を叩き落す……。そんなふうにタケミは相手をあしらっていった。

 30人斬り捨てたのだ。

「残念だったな男子諸君! タケミちゃんの貞操は鉄壁だったというわけねー」

「とんだ茶番劇だったな……」

 タケミはため息を吐く。

 タケミが目指す先は騎士である。育て親のファルコナーに拾われてからタケミは騎士の高みを目指していた。

 強くなりたいと、この世界に来てからタケミは思うようになっていた。

 元の世界では、剣道に限界を感じていた。剣道はスポーツじゃなく、オリンピックにも出られなくて、アスリートになれず、相撲や柔道のように注目される競技でもない。

 しかしここでは、剣を振るう騎士は誰よりも注目される存在だ。

(平和なのもいいが、やはり俺にはこの世界が似合っているのかな)

 剣で強くなれて、戦える。

 まさしくタケミの望んだ世界である。しかも女の騎士で、男だったころに比べると日々は清涼感に包まれている。

(これで男たちに告白されなきゃ、天国なんだがな)

 そう世の中、なんでもうまくいかないものである。

「30人全員倒しちゃったねー。じゃ、残りの時間は『私』が相手をしようかねー」

「ま、まさかクレア先生、あなたも決闘を申し込む気ですか……」

「私に勝てる男子生徒いないかなー」

「男子生徒と禁断の恋に落ちる気ですか!?」

 そう絶叫するタケミとクレア――

 のもとに、

「待ってください」

 と、妙に子供っぽい声が割って入った。

「ん? 君はトムくんじゃないかー。どうしたの、まさか先生に決闘を申し込む気?」

「いえ、ボクが相手をしたいのは――ミス・ファルコナー。タケミさんのほうですよ」

「は?」

 タケミが顔を向けた先に――

 金髪の少年が立っていた。

 短く伸びた金髪。翡翠のような目。小学生が紛れ込んだんじゃないかと一瞬思ってしまうほど小さな背。顔立ちも幼い感じで、やんちゃな雰囲気が見え隠れする、そんな男の子はいっちょまえに腰に剣を佩いている。

 男剣士科の生徒である。

(なん……だ、この子は)

 タケミは突然の参入者であるその少年へと首を回す。タケミの3分の2ほどの身長の男子生徒だ。剣士にしては小さいものだが、果たしてその腕はいかほどのものか。

「タケミさん、話すのは初めてですね。どうも、ボクはトム・デザートイーグル。よろしくおねがいします」

「は、はぁ……」

 金髪少年、トムはタケミに対し純粋な笑顔を向ける。おもむろに手を出し、握手を求めてくる。

 タケミはトムの純真さに当てられながら握手をする。タケミはどうもぎこちない感じとなる。なにせ、タケミに向かってきた男子は全員、バカみたいにタケミに突撃していたのだが、どういうわけか目の前の男、というか少年は紳士的である。

 なにか雰囲気が違う。タケミは持ち前の勘でそんな気配を感じ取った。

「よろしく……」

 そう感じつつも、悪い相手ではないとタケミは思う。そして、その小さなトムの手が、意外と硬く締まっていた――どうも“腕”は悪くないようだ。

「タケミさん、ボクも君に決闘を申し込もうと思ってね」

「ま、また決闘なのか……」

 タケミは“決闘”の言葉に眉をひそめた。

「そうです、ボクもあなたの美しさに見蕩()れ、とりことなってしまったのです」

「な、なんてキザなことを……」

 隣のエルクもトムの芝居がかった口調に呆れていた。もちろんタケミもオトコからの甘い言葉に寒気を覚えていた。

「タケミさん、ボクはもともと別の騎士学園に所属していて、ここに来たのはちょうど先日なんですよ」

「そう言えば見たことがなかったな……」

 タケミは思い出す。トムは初めて会った相手で、ここ最近の、男子との合同訓練のさいも姿を目にしていない。

「ボクはまぁ、家の事情でここに編入してきたんです。でも、あなたのことは耳にしていますよ。なにせ『素手でドラゴンを絞め殺した』というじゃないですか」

「いくら俺でも素手でドラゴンは絞めれねぇよ……」

 またあらぬ噂にタケミは頭をかかえるばかり。

「まぁ、噂はともあれ、あなたの剣のすごさはいまさっき拝見しました。ほんとうに素晴らしい。まるで男の武神が転生した――みたいでしたよ」

「お、オトコ……ッ」

 その冗談じゃないたとえにタケミはあたふたする。

「ぜひともあなたと剣を交えたいと思っていました。ボクもいずれは騎士となる身です。そのためには、あなたのような強い相手と戦い力を付けなければなりません」

「はぁ、そうなのか……」

「そして、アナタを越え、アナタを(めと)りたいのです」

「め、めとる、だとぉ……」

「わわわわっ……」

 その提案にエルクとタケミの双方が震え上がる。

「とにかく、戦いましょう。タケミさん」

 トムはそう言いつつ、自身の手袋を脱ぎ、それを優しくタケミに向けて投げたのだった。

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