エピローグ 『女たちの戦い』
それから3日後のこと。
見事ジェイドドラゴンを倒し終えたタケミたちは文句なしの好成績で演習を終えた。
なにせタケミたちは演習用のハリボテドラゴンでなく、ホンモノのドラゴンを倒し得たのだから。
「いやーさっすがだねぇタケミちゃん、ほんとうにドラゴンを倒しちゃうなんてー」
講堂にてタケミたち『黒ウサギ隊』は実技のクレアと座学のエステラに賞賛されていた。
今日は3日前に起きた『騎士団演習』の反省会である。
見事ドラゴンを倒し終えたタケミはその後、エルクたちに運ばれて昨晩泊まった宿にて休息し、徒歩にて順調にケルベロス学園へと戻った。
どうもタケミたち黒ウサギ隊は一番乗りで学園に着いたようだった。
(イソップ物語じゃ、ウサギは寝過ごしてカメに追い抜かれるのがオチだが……)
少し遅れて蛇鶏隊が到着。そのほかの隊もその晩から次の日の昼にかけて戻ってきていたが……
エルクを虐めた牛飼い隊とタケミを拉致した火鼠隊は――その報いを受けたように帰ってこなかった。教員たちによる捜索が成されなんとか帰還したようだが、成績評価はいうまでもなく最低だろう。
「あー、今回の騎士団演習、1年ながらみんなよくがんばったなー。途中で遭難しかけた団が2団、魔物のスライムに足を取られた団が1団、モーントで金を使い果たして路頭に迷いかけた団が1団、そしてぇ、犯罪行為に及んだ団が2団~とまぁ、いろいろあったけどごくろうさ~ん」
騎士団演習の惨状をつらつらと述べるクレアに対し、一同はしーんと黙り込む。ただクレア一人ががははははと陽気に笑っている。
「ま、種明かしすると私たち教員はアンタたち1年全員を陰から監視してたからさー、悪さをしていたらバレバレってわけ、もっとも今回は誰かさんが先に、犯罪行為に及んだ団員に制裁を加えてくれてたから、私の仕事はなかったんだけどね」
「クレアさん、監視してたなら俺たちのこと助けてくださいよ……」
タケミがはぁ、とため息を吐く。
「いやぁ、ごめんねぇ。こっちもいろいろ立て込んでて、まさかタケミちゃんがホンモノのドラゴンと戦ってるとは思ってなくてさー」
「まぁ、結果俺たちは生きているからいいんですけど」
「そうよ、要は結果さ」
クレアは講堂の皆を見回し言葉を続ける。
「あんたたちはこれから騎士団の騎士になるんだ。外に出れば私たち教員の助けはない、生きるも自由、死ぬも自由というわけさ。そんな世界に常識も定石もない。だから臨機応変に行動することだ! わかったな!」
「「はい!」」
1年の生徒たちは一斉に勇ましく叫んだ。
タケミたち同様、今回の騎士団演習で皮がむけ、逞しくなったようだ。
***
「いやはやタケミさん、すばらしい戦果ですよ」
タケミの部屋を訪れていたのは、小さな背の金髪少年、トムだ。
「な、なんだトム……。また俺になにか用なのか……」
「身構えないでくださいよタケミさん。ボクらはもう、婚約者ではなくなったのですから」
「な……に?」
タケミは疑問を抱く。
「演習においてあなたはホンモノのドラゴンを屠ったんです。こりゃ、一本取られちゃいましたね。まだまだボクはあなたに見合う剣士ではないようでしたね」
「い、いや……あれは……たまたまというか、必死になって戦ったに過ぎないんだ。あそこに“魔剣”が転がっていなければ倒せなかっただろうし……」
ちなみにタケミが振るっていた魔剣はクレアによって回収された。1年には魔剣を振るうにはまだ早いとのことで学園の武器庫に保管されたそうな。
「クレア教諭もおっしゃっていたじゃないですか。要は結果です。さすが、勇者の生まれ変わりのタケミさんです」
「勇者の生まれ変わりって……お前までそのこと――って」
……勇者?
タケミはもちろん、トムにも、そしてほかの誰にも“勇者”のことを話していない。
どうして、知っている?
「ど、どどどどどど、どういうことだトム! ゆ、勇者って、なにかの比喩か……」
「おや、タケミさん。その動揺から察するに、ようやく事情を知ったみたいですね」
「じ、事情って……おいおい、お前、いったいなんの話を……」
動揺するタケミをよそに、トムは部屋を見回した後、静かに口を開く。
「つまりはですねタケミさん、ボクはあなたと同じなんですよ」
「は、はぁ!?」
「魔王を倒した伝説の騎士団、『太陽の騎士団』は4人の英傑がいた。その一人である女剣士のミネル……その生まれ変わりはあなた、タケミさんですね」
「ど、どうしてそれを……」
「名前でバレバレですよタケミさん。タケミなんて日本人な名前、この世界には少々不似合いかと思いますよ」
「……おまえはまさか」
「ええ、ボクももとは日本人で、そして……もともと、“女の子”だったんです」
「はぁああああああああああああああ?」
タケミは絶叫を上げそうになるが、それはトムの手に抑えられる。
「このアテナ王国には4英傑の生まれ変わりが存在したんです。勇者ミネルの生まれ変わりがタケミさんの身体であった存在、そしてボクはシグマ・モローの生まれ変わりなんですよ」
「なに……」
「もっとも、その身体は魔物によって一度死んだ。あなたの“身体”と同じように、そしてタケミさんと同じように――ボク、乙女山トモエもその身体に魂が定着され、生まれ変わったんです」
「乙女山トモエだと……。ああ、もう、アタマが混乱するが……つまりお前も俺と同じ……」
「英雄の生まれ変わりですよ」
「お前の生前の性別は?」
「女でした」
「今は」
「男です」
「なんて話だ……。俺と、似たような境遇だったとは……」
「やはりタケミさんも似たような境遇だったんですね。いやはや、もっと早くに聞いておけばよかったですかね。もし違っていれば変な誤解をされそうだったので、聞きそびれていたんですよ」
つまりはトム――乙女山トモエもタケミと同じ流れで転生したのだ。
トムのもとの身体、英雄シグマの生まれ変わりは死んでしまった。しかしそれは武神の気まぐれによって、霊界より魂を引っ張り出して復活させた。
「タケミという名前と、そして剣の振り方がどうも剣道に似ていたので、ピンと来たんですよ。ボクもまぁ、生前は女子剣道部で、それなりに腕があったんですが、ちょっとした事故に遭って死んでいたんです。それが偶然にもこのように生き返った。武神となったシグマさんいわく、ボクは英雄を受け継ぐ素質があるとかなんとかで、そんなふうにしてよみがえったというわけです」
「俺も……だいたい同じような話の流れで転生したみたいだ」
「ははぁ、やはりそうですか」
トムはやけに納得した顔で言った。
「……タケミさん、ボクたちがこのようにして、無理矢理生き返らされたのには意味があるみたいなんですよ」
「意味……」
「演習のとき、タケミさんはドラゴンと遭遇したんですよね?」
「ああ、そうだが……」
「あれはおそらく予兆です。魔王の復活の……」
「魔王の……復活だって?」
「武神のシグムさんいわく、あと1年足らずでこの世界に魔王が復活するみたいなんです。だからボクたち、勇者の生まれ変わりが蘇らされたんです」
「つまり俺たちは、魔王を倒すために生き返らされたのか」
「そういうことでしょうね」
そう言うとトムは手を伸ばす。
「タケミさん、ボクがあなたに近づいたのはこの事情があったからです。どうもボクらは手を組んで、魔王というやつを倒さなければなりません。それがボクたちの使命のようです」
「お前、話し方が様になってるが……ほんとうに女だったのか」
「やだなぁ。ボクも女の子だったんですよー。まぁ、とにかく。タケミさん、いまこそボクの団に入ってくれませんか? これがボクたちのなすべきことと思いますが」
「うーん……」
タケミは考え込む。とつぜんのことに頭がこんがらがっていた。
自分は勇者の生まれ変わりとして生き返った。ならば――
「俺は――」
***
「タケミさぁーん」
タケミは王都にある、商店の通りを歩いていた。
右にエルク、そして左にはフェネとセレナ。黒ウサギ隊の面々である。
「今日はこのまえみたいに逃げちゃだめですよータケミさん! タケミさんにピッタリな、カワイイ下着を選んであげますよー」
「あ、ああ……」
騎士団演習を無事終えたということで、タケミはエルクたちに誘われ商店巡りに付き合わされていた。
正直なところ女の子の買い物について疎いタケミは参加したくなかったが……エルクたちに誘われては断りづらい。
「なぁエルク」
「ふあ? なんですかタケミさん?」
商店の品物に目移りしていたエルクはタケミへと顔を向ける。
「いや、その……」
タケミは口ごもる。どうも言葉が続かない。
「やっぱりタケミさん……私たちと一緒じゃ、イヤですか……」
「いや、そんなことは……」
「やっぱり、蛇鶏隊みたいな、カッコ良くて強い仲間のほうが、タケミさんの好みに合うんでしょうか……」
「な、なんでそこでトムの隊が出てくるんだ……?」
どうもエルクは妙な妄想に憑りつかれているようである。
「安心しろエルク、俺はこの黒ウサギ隊でこれからもバカをやっていくさ」
「タケミさん……」
「強さなら俺たち黒ウサギ隊が上だろう? なにせ、1年でドラゴンを倒したのは俺たちが前代未聞と来たもんだ! エルク、お前は自分を誇っていいんだぞ。もっと自信を持て」
「でも私は……ずっとタケミさんにおんぶにだっこで」
「そんなの構わないさ。これから俺たちは強くなっていけばいいさ。魔物が来ようが、魔王が復活しようが……」
「魔王?」
「ああいや、こっちの話だ」
タケミはこほん、と咳をする。
「まータケミよ、今日は童の功労をたたえて揚げパンをごちそうするがいい」
「フェネ、さっそくお前は俺に集りやがって……」
「そうですよねー。今日はいちばんの頑張りを見せたタケミさんに、焼き菓子店のケーキをおごってもらいましょうか」
「ふむ、ケーキも悪くないな」
「お前たちなぁ」
タケミのこの世界での日々は続いていく。
タケミは大切なものを守るため戦い続ける。




