第五章 『以心伝心の黒ウサギ隊』G
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“わたし”とは何者なのか。
それはこのカラダのもとの“人間”のことであり、もとの人間が歩んでいた人生のことだった。
タケミがタケミ・ファルコナーとなる前の、タケミのカラダ。
その少女はミカという一人の少女だった。
少女はカーミラの町で生まれた、庶民の娘だった。父は金細工師で、ミカはその手伝いや家の手伝いに励んでいた。
しかし――
少女、ミカはふつうでなかった。
その事実を知らされたのは、ミカの生まれ育った故郷、カーミラがオークの襲撃を受けたときのこと。
『オマエは、魔王を斃した勇者、ミネル・アームストロングの生まれ変わりだ』
そう齢10歳の少女に告げられた。
ミカは勇者、ミネルの生まれ変わりだった。
生まれ変わりと言ってもミカにはミネルの記憶はなく、ただその身体と、“力”がミネルより引き継がれたものだという。
要は勇者の身体をもってしてミカは生まれたのだ。
そんなミカはしかし、オークたちによって殺されたのだ。
勇者の生まれ変わりが生まれてしまえば、“魔王”が復活できなくなる――
滅んだ『魔王』の思念によって、遣わされたオークたちにより、戦うすべのなかったミカは殺されてしまったのだ。
しかし、ミカは、勇者の生まれ変わりの身体は、もう一度“生まれ変わった”。
勇者ミネルの意思が、“タケミ”という強い精神の魂を引き寄せ、ミカを復活させた。
タケミは勇者の生まれ変わりとなっていたのだ。
***
「なん……だ、ここは」
タケミは暗い世界へと落されていた。
「ひさしぶりだな、藤ノ木タケミよ」
「だ、だれだ……」
その久しぶりに聞く自分の名前にタケミは気を引きつらせる。
「私はミネル。かつてこの世界の勇者だった存在だ」
「勇者……って」
タケミは黙り込む。どうも自分は人知を超えた世界に飛ばされたようだ――と解釈する。
「残念ながら、お前は二度目の死の間際に立たされたようだ」
「また俺は……」
「まぁ、そう打ちひしがれるな。もっとも、お前さんにはこの世界を救ってもらいたかったのだがな」
「世界……」
その抽象的な言葉をぼんやりとタケミはつぶやく。
「世界は一度魔王に滅ぼされかけた。それを救ったのがこの私だ」
「じゃあ、あなたはやっぱり、アテナ王国の神話の、100年前の勇者なんですね」
「さよう、物分かりが良くてありがたい。私は魔王とともに死んだあと、この世界を守るため、武神となって世界に干渉していたんだ」
「武神って、神様なんですか」
「さようだ」なんのこともない風にミネルは言った。
「魔王を倒した後もその脅威が去っていないのはオヌシも知っておったろう。私もそれを危惧して、私は、勇者の生まれ変わりをずっと監視して居ったのだ」
「勇者の生まれ変わり……」
「私の、勇者の力を引き継ぐ人間をな。その生まれ変わりさえいれば、たとえ魔王が復活したとしてもなんとかなる。しかし、2年前のあの日――勇者の力を引き継ぐ人間が死んでしまった」
「それは……」
「その人間こそ、お前だよ」
「俺……」
タケミは首をかしげる。
「正確にはお前だったヤツだ。そのお前の身体のなかにいた人間が死んでしまった」
「そう……か、あのオークの襲撃で」
「そうだ。そうして勇者の生まれ変わりは死に絶えた……のだが、これではいかんと思って、私はその少女の身体に魂を定着させた」
ミネルは一呼吸おいて、
「その魂は霊界にある、あらゆる次元の世界より、若くたくましいものから選んできたものだ。そのような魂の候補の中からひとり、お前という存在を選んだのだ」
「じゃあ、やっぱり俺は前の世界で死んでいて……そして、あんたの気まぐれで選ばれて、勇者の生まれ変わりを、もう一度生まれ変わらせたってわけか」
「そうだ」
タケミはそこで、はぁあ、と一生分の大きなため息をついた。
「ほんと、ふざけた話じゃねぇか。俺は勇者の器に見合わねぇ、元の世界じゃいわゆるフツーの高校生だったんだぞ……」
「しかし、お前の魂はなによりもまっすぐなものだった。あくまで、その時点に見つけた魂のなかでは上モノでな」
「しかし転生って……神様って何でもできるんだな」
「生前の行いがいい人間は高い確率で“転生”が可能でな。今回お前が転生できたのも、そういう摂理があってのことだ」
「それを、武神のアンタがうまく利用したってわけか」
「そうだ」
タケミは呆れを通り越して、ケラケラと笑い出す。
「まぁでも、せっかく勇者にしてもらってすまないが、俺は死んでしまったようだぞ……」
そう、タケミはドラゴンにやられて死……。
「いや、お前さんは死んでないぞ」
「な、なんだって!?」
とつぜんの展開にタケミは目を見開く。
「あくまでお前は死の淵にいるだけだ。おそらく、もうすぐしたらお前はここから去るだろう」
「どうして……」
「お前のかき集めた仲間によってな」
タケミの視界が白に染まる。
温かい光に包まれ、タケミは目を醒ます。




