第四章 『乙女たちの珍道中』C
「むぁ……」
頬に伝う肌寒さでタケミは目を覚ます。
チーチーと小鳥のさえずり。おぼろげな景色の中、おだやかな緑の平原が広がっている。
(朝……だな)
体内時計どおりにタケミは起き上がる。
しかし、体が持ち上がらない。
「なん……だ」
身体に違和感。がっしりとなにかに捕まれている感じがするが……。
右を見ると、
「タケミさぁ~ん、ダメですよ、女の子同士でそんなことぉ~」
「……エルク」
エルクが夢心地で、タケミの腕に捕まっている。抱き枕変わりとなっている。
そして左を見ると、
「すぅー……」
小さな鼻息を立てて、小さくまるまってコアラのように抱き着く、フェネの姿。
「フェネちゃん、よしよーし」
そのフェネに連なるようにして、セレナが抱き着いている。
「なんなんだこの重装備は……」
タケミは嘆息。そして己の腹筋力と膂力を駆使して無理矢理団員たちを引き離そうとするが、
「や、やん。先輩そこはだめですよ!」
「にゃむにゃむ……」
「ああん、フェネちゃん私が先に――」
「起きろバカどもぉ――!」
タケミは怒り狂い、エルクたちを放り出す。
「貴様たちはたるんでる! 団員の俺より寝ぼけるとは何事だ!」
「ふぁあ~、先輩ですかぁ~」とエルク。
「もういちど、寝るのじゃ」とフェネ。
「あれぇ、ここはどこですかぁ」とセレナ。
「寝ぼけすぎだお前たち! 罰としてお前たち腹筋背筋スクワットうさぎ跳びそれぞれ1000回やり終えるまで朝飯貫きだ!」
「そ、そんなぁ~」
「文句を垂れる前に身体を動かせ! 俺の騎士団に入ったものは、死ぬまで俺の命令に従うんだ!」
「「「さーいえっさー!」」」
そんな騒がしい朝となった。
「よし、皆筋トレは終えたか?」
「…………」
黒ウサギ隊全員が筋トレを終えた。
すでにタケミは皆より早く筋トレを終えており、余った時間で朝食を作っていたという手際の良さである。
対するほかの団員は、へばっていた。
「あ、足がうごかないですぅ~」
「こんなのつづけてたら……じぬのじゃ」
「ああ、天上の天使様、お慈悲をぉ!」
「お前たち、よく頑張ったな。さぁ飯だ。食うがいい!」
どん、と簡易テーブルにタケミは朝食を並べていく。
竹筒に入った白い飯に、干した魚を焼いたもの。そして、謎の茶色い液体。
「せ、先輩……白米とサカナは分かりますけど、この茶色いのは」
「ああ、それは俺自家製の味噌で造ったみそしるだ!」
「みそしる……?」
「大豆を煮たものを塩とか、ご飯の菌? っぽいものを混ぜて、樽に入れて発酵させて――作ってみたものだけどな」
「はぁ……」
「それはたべられるのかのぉ……」フェネが不安げに尋ねる。
「今回のみそは……たぶん大丈夫だろう。味見してないが」
「な、なにか異様なニオイがするんですが……」
団員たちは顔をしかめている。タケミの料理スキルはそう悪くない。転生前もよく料理を作っていたし、転生後も育て親のフェイとともにこの世界での料理を習得していた。
しかし、味噌をつくるとなると話が別になる。タケミの思い描く“味噌の作り方”は、転生前の世界でテレビや雑誌で見たおぼろげな記憶を頼りに考え出したもの。こっちに来てからタケミは輸入品の大豆を取り寄せ10回ほど味噌づくりに挑戦していた。最初の頃は味噌を腐らせてしまい、そして麹を入れることを忘れておりただの腐った豆ができてしまった。
そして試作を重ねた上に出来上がった10作目の味噌である。
「具材はヨモギしかないが、とにかく飲むといい」
「い、いただきまぁーす」
「いただくのじゃ」「でございます」
一同は味噌汁に口を付ける。
「こ、これは……」
「あじがしない……のじゃ」
それはただ茶色いだけのスープだった。
「って、そうか。味噌汁は出汁を取らないと味がしないだったな……」
「ただのヨモギとお湯……」
一同はタケミの作ったスープを静かに啜っていた。まだまだ試行錯誤が必要なようだ。
「よし、それでは行くぞみんな」
タケミは後ろを振り返る。
「いきましょータケミさん!」
「今日で山を踏破してやるのじゃ」
「足が棒になるまでがんばりましょー」
黒ウサギ隊の皆はこの時点まではずいぶん意気揚々と行軍に臨んでいた。
あくまで、この時点までなのだが。
「どうしたお前たち、まだ一時間も経ってないぞ」
タケミの後ろ。
エルクたちはすでに足が棒となり、苦い表情を浮かべていた。
「タケミさん速すぎですよぉ~」
「童たち魔導士はタイリョクがないのじゃ……」
「そもそもどーして馬で移動しちゃいけないんですかぁ」
そんなふうに文句を垂れ、へばっていた。
「まったく、お前たちは……」
タケミはそんな団員たちへ駆け寄った。
「行軍も立派な訓練だ。俺たち騎士団はあらゆる状況を想定して行動しないといけないんだ。敵に隠れて移動したり、敵と交戦しながら移動したり……。そんな状況で、馬なんかに乗って移動したらバレてしまうだろう?」
「それは……そうですけど」
エルクたちにはどうもタケミほどの根性はないようだ。
それもそのはず、エルクたちはタケミと違い女の子。タケミもそれが分かっていて強く言えないのだ。
(女の子に……喝を入れるにはどうすればいいんだ?)
タケミはしばらく考えたあと、
「そうだな、あそこの木のところまで行けたら休憩で、クッキーを一枚食べよう」
「!!??」
休憩、もしくはクッキーという言葉に反応したのか、団員たちはすくっと立ち上がりスタスタと山道を歩いていく。
「お、お前たちは本能に素直だな……」
そんなこんなでタケミたちの行軍は(おやつをエサに)順調に進んでいった。
タケミの進むルートはそれほど険しくなく、道中魔物や野犬にエンカウントすることなく進むことができた。もっとも、クモやハチの類には皆が辟易していたが。
そんなこんなで『凪の丘』の、ふもとにあるモーントの村へとたどり着いた。




