第三章 『誰が駒鳥殺したの』C
「タケミさん……」
エルクはタケミの部屋の前に来ていた。
「すまないなエルク。しかし、俺も犯人捜しばかりしていられないし、事を大きくしたくなかったしな」
「それは……しかたないと思いますけど、でも……」
エルクは腑に落ちないのか、悲痛の顔を浮かべている。
「タケミさん! 私はタケミさんの騎士団に入れて、とっても良かったと思っています!」
「そ、それはどういたしまして……」
「私は、タケミさんみたいな強さも、賢さも、やさしさもないんです。何のとりえもない、ただの…………ホークアイ家の、厄介者なんです」
「エルク……」
エルクはホークアイ家の娘……であった。
自分には姉がいて父がいて母がいて、それが当たり前のことと思っていた。
しかし、エルクの本当の母親は、どこの馬の骨とも知らない“娼婦”であった。
その噂は学園に漏れ、『娼婦の娘』とエルクは呼ばれていたことがあった。
「エルク、でもお前は努力家だ。素直で、真面目で、剣の腕も着実に上達しているではないか」
「そんなの……ただ私はタケミさんの後を追っていただけなんです。でも、そんな私の“目標”のタケミさんに、騎士団に誘っていただいて、とっても嬉しかった……でも……」
エルクは少しの間言葉を止めた。
「このままじゃ……あいつのせいで、全部だめになっちゃう気がして……嫌なんです」
「あいつって、フェネのことか?」
「……犯人があいつかどうかわかりません。でも、この事件が起こったのはちょうど、あいつが騎士団に入ってからじゃないですか! あいつがやってないにしろ、きっとあいつが原因で起きたに違いないんです……。だから……」
エルクの言うことも分からないでもない。フェネをこのまま騎士団に置いておくと言うのもリスキーとも言えることだ。
「エルク、俺が無力ですまないな」
タケミはエルクを抱き留めた。
「今夜は俺の部屋で眠るといい。また部屋が荒らされるかもしれんからな」
「タケミさん……すいません、ずっと私、タケミさんに頼りっぱなしで」
「いいさ。持ちつ持たれつ、助け合ってやっていこうぜ」
涙の粒を目に浮かべるエルクを見るとタケミはいたたまれなくなる。どうにかなってしまいそうな気持の中、タケミは部屋へと戻った。
暗闇があたりを支配し、月明かりのみが耀く世界となる。
「タケミ……さぁ~ん」
エルクはタケミのベッドの上でずいぶん上機嫌となって眠り込んでいる。
対するタケミは……
(寝れるわけ……ねぇだろう)
エルクに『一緒に寝ましょーよ!』と無邪気に言われたが、心は未だ男のタケミが女子と一緒に眠るなどできるわけもない。自分のハダカはさすがに見慣れてしまい動揺しなくなったが、他人に関してはいまでも一般的男子レベルで動揺してしまう。
ネグリジェ姿のエルクでさえ、タケミは触れるどころか直視できないでいた。
(俺は床ででも寝ようかな)
すっかりフカフカのベッドで寝慣れてしまったタケミは雑魚寝では十分に眠れないかもしれないが……
タケミが床へと目を向けたとき、
コンコンコン――
と戸を叩く音がした。
(誰だ。こんな夜中に)
そう思いつつ、タケミはこんな夜更けに現れてくる闖入者について一人、心当たりがあった。
おそらく、昨晩の犯人……だろうか。
タケミはおそるおそる扉を開いた。
「こんばんは……です」
「やはり……犯人はお前だったか」
現れたのはタケミと同じほどの背の、金髪セミロングの少女。
聖術士見習い、セレナ。フェネの幼なじみであった。




