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第三章 『誰が駒鳥殺したの』A

「なぜだ……」

 タケミは目の前の情景に絶望していた。

 昨日、自分はそれなりに“最強”の騎士団を結成したと思っていた。

 突出したところはないものの、何気に真面目なエルクと、猫頭族として恐れられるフェネ、その幼なじみで聖術士のセレナというメンバー、そして自分。

 それらが揃えばどんな敵をもたおせると思っていたが……。

 実際のところ、石像一体倒せていない。

 というのも。

「な、なにをするんです! あなた、私に魔導を放たないでください!」

「邪魔じゃ、退くがいいコワッパ」

「コワッパはあなたでしょう!」

「もー二人とも、喧嘩しちゃあだめじゃないですか!」

 騎士団を結成したタケミたちはさっそくその翌日の放課後、来る騎士団演習のための自主訓練を行っていた。

 行うべき依頼はハリボテドラゴン退治。

 そのハリボテドラゴン退治の予行演習をするため、闘技場の開けた草地に『ドラゴン』の形をした石を設け、それをドラゴンと見立てて実際の訓練を行っていた。

 の、だが。

 フェネはエルクを無視し、ドラゴンの像に魔法を放ったため、傍にいたエルクに魔法が当たってしまったようだ。フェネはそれに対し謝罪せず、対するエルクは怒りに燃え、訓練なんかそっちのけでフェネとエルクは言い合いをするという顛末である。

 それをセレナがなんとか割って入って何とかしようとしているが――どうもセレナは、話し口調通りのおっとりした感じで、激しい言い合いには入ってこれていないようだ。

(これじゃあまるで、小学生のケンカじゃないか)

 ため息を大きく吐くタケミであった。


「いーか、お前ら」

 放課後。

 “騎士団(名前はまだ未確定)”結成の打ち上げとして、食堂にてお菓子パーティを開いていたのだが。

 しかし、エルクとフェネは双方、訓練時と変わらない険悪なムードとなっていた。

「どうして私の言うことが分からないんですか!」

「うるさいのじゃ。もしゃもしゃ、お菓子をゆっくり食べれないのじゃ」

「お菓子を食べる手を止めなさいです!」

 とまぁ、こんな始末である。

 エルクが怒り、対するフェネは冷たい顔で挑発するように無心でお菓子を食べている。フェネはすでに色とりどりのマカロンを5個ほど平らげていた。

「お前たち……どうしてこう仲良くできないんだ」

「タケミさん! こんなやつ、騎士団から追放してやりましょうよ!」

 エルクはどうもフェネとそりが合わないようだ。

「エルク、どうした? いつものお前はそんなに熱くなることないじゃないか、もっと冷静になれよ」

「タケミさんのことを思って言ってるんですよ! 今日もあいつ、私に魔法をぶつけてきたんです! きっとワザとですよ!」

「ワザとじゃない。オヌシがマヌケなだけじゃ」

「なんですって!」

「いいから落ち着けと言ってるじゃないか!」

 もはや取り付く島もない。

「はぁ……。二人がこうもいがみ合うとはな……。マトモなのは、セレナだけか」

「うふふ、でもフェネちゃん、ずいぶん明るくなったと思いますよ」

 タケミの向かいの席に座るセレナは、紅茶の入ったカップを手にして微笑んでいた。その容姿と身のこなしはなかなか絵になるものだった。

「フェネちゃんはずっと、私以外の人と話しすらしなかったですから……。ある意味では、これも成長ということでしょうね」

「エルクも……俺以外と話せてなかったからな。悪くはないと思うんだが」

「お互い苦労しますね」

「まるで子守をする母親だな……」

 タケミとセレナは妙な共通項を持ったことに共感を覚えていた。

「私が思うに、エルクちゃんはおそらく……妬いてるんじゃないかって、思いますよ?」

「焼く? 肉か魚でも焼いているのか?」

「その“焼く”じゃないですよ。きっと、フェネちゃんにタケミさんを取られるんじゃないかと思って、その不安心からこうしてるんだと思いますよ?」

「俺がフェネを取る……ねぇ」

 そんな気はタケミに一ミリたりともないのだが。

 しかし、フェネが騎士団に入ってからエルクを構う時間がほんの少しだけ減ったのは事実である。

 それをエルクが敏感に感じ取ったのか、とタケミは考える。

「まぁ、俺も四六時中誰かの世話をしているというのは無理な話だしな。できれば、エルクとフェネが俺以上に仲良くなってくれたらいいんだがな」

「それは私も思いますね」

「お前も、フェネが好きなのか?」

 タケミはふと、自然な気持ちで尋ねてみた。

「好き……ですか。たしかに、私はフェネちゃんと幼なじみです。ここの中等部時代から一緒で、あの当時は魔導士科と聖術士科の区分けがなかったですから、同じクラスで勉強し合っていたんです」

「なるほどな……」

 聖術とは魔導の一部である。その魔導を“攻撃”に使うか“治癒”に使うかで名称が変わるだけで、本質的には一緒なのだそうだ。

「その当時もフェネちゃんは学年1の成績で、誰よりも強く賢い魔導士見習いだったんです。それゆえ、いろんな人から妬まれたり、変な噂を流されたりしたんですよね」

「まぁ、あの“容姿”なら、変な噂が立っちまうのは無理がないのか」

「神様はほんとうに……不公平ですね」

 ネコミミの生えた、変わり者の優等生。

 そんな優等生に唯一近づいたのがセレナというわけである。

「まぁ、あいつがどんな変わり者だろうと、俺はフェネを追放しないさ。なにせこの俺自身も“変わり者”だしな」

「まぁ、タケミさんはずいぶんと規格外な噂を耳をしますから……」

「噂は噂だ。とにかくまぁ――」

 タケミはオレンジジュースの入った杯を手にし

「結成を祝して乾杯だ」

 エルクとフェネが言い合う傍で、タケミはセレナと杯を交わした。

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