不思議の国のアリス
脚本です。小説ではないです。
「」の前に名前が書いてあります。
地の文も、感情ではなく、指示出しがほとんどです。
ご了承ください。
アリス「遅いなぁ、キャロル…」
舞台の中央に座っているアリスが、周りを見回す。
時計を持った時計ウサギが現れる。
時計ウサギ「大変だ!遅刻してしまう!」
アリス「ウサギが喋った!?」
アリスがいることにも気付かず、時計ウサギは手袋を落として、舞台袖へ走り去る。
アリス「待って、ウサギさん!落とし物よ!」
アリスが手袋を拾って、時計ウサギを追いかけて舞台袖へ。
背景を森に変える。
時計ウサギが先に現れ、また反対の舞台袖へ走り去る。
遅れてアリスが息切れしながら、舞台中央辺りで立ち止まる。
アリス「行っちゃった…」
アリスは俯いて手袋を見つめる。
そして、ハッと顔を上げ、辺りを見回す。
アリス「ここ、どこなんだろう…?」
右往左往するアリス。
チェシャ猫が現れ、アリスに気付いて声をかける。
チェシャ猫「何かお困りのようだね」
アリス「わっ、猫が喋ってる!」
チェシャ猫「ただの猫じゃないよ。僕はチェシャ猫。そこらの奴とは偉さが違うのさ」
アリス「チェシャ猫?聞いたことないわ」
チェシャ猫「それは勉強不足だよ。ところで、アリス。こんな所で立ち止まってどうしたんだい?」
アリス「私、友達のキャロルと待っていたんだけど、そこで喋るウサギさんがこれを落としていったの」
アリスが手袋をチェシャ猫に見せる。
チェシャ猫「あぁ、これはきっと時計ウサギのものだよ。時計ウサギはせっかちで、うっかり者なんだ」
アリス「時計ウサギ?確かに、大きな時計を持っていたわ」
チェシャ猫「時計を持っている割にはよく遅刻するんだよ。どうせ今日も慌てていてそれを落としたんだろう」
アリス「落し物は届けなきゃ。チェシャ猫さん、時計ウサギさんがどこにいるか知ってる?」
チェシャ猫「きっと、帽子屋のお茶会だ。あっちだよ」
アリス「ありがとう!」
アリスとチェシャ猫は別々の舞台袖へ。
お茶会のセットをする。
アリス「時計ウサギさん」
時計ウサギ「おや。何だい?水色のお嬢さん」
アリス「私はアリスよ」
時計ウサギ「アリス。この私に何か用かね?」
アリス「あなたの落し物を届けにきたの」
アリスが手袋を時計ウサギに渡す。
時計ウサギが大げさに驚く。
時計ウサギ「君は優しい子だな、アリス!私はちょうどこれを探していたんだ」
アリス「それなら良かった」
帽子屋「どうだい?君も一緒にお茶を飲まないか?」
アリス「いいの?」
帽子屋「大歓迎さ」
アリス「ありがとう」
アリスが椅子に座る。
アリスの前に置かれたティーカップに紅茶が注がれる様子はない。
アリス「…ポットはどこ?自分で注ぐわ」
帽子屋「ポット?ポットなんてないよ。お茶会にはティーカップとケーキがあれば十分さ」
アリス「じゃあ、紅茶は?」
帽子屋「あぁ、たーんと飲んでおくれ」
アリス「紅茶がないんじゃ飲めないじゃない」
帽子屋「飲めない?遠慮はいらないよ、アリス」
アリス「そもそもケーキもないわ。お皿だけ」
時計ウサギ「あぁ、そうだ。ケーキ。私はケーキを食べるために手袋を探していたんだよ」
アリス「ケーキを食べるため?手袋でケーキを食べるの?」
時計ウサギ「そうだよ。変かい?」
アリス「変に決まってるわ。普通、ケーキを食べるにはフォークを使うでしょ」
時計ウサギ「どうして?」
アリス「手袋だと汚れるからよ」
時計ウサギ「フォークだって汚れるよ」
アリス「フォークは洗えば綺麗になるじゃない」
時計ウサギ「おかしなことを言うねぇ、アリス。手袋だって洗えば綺麗になるよ」
アリス「おかしいのはあなたのほうよ。普通、手袋で食べないわ」
時計ウサギ「私の普通からすれば、フォークでケーキを食べるという君の方がおかしいけどね」
全員、黙り込む。
アリス「…あ、私、友達と待ち合わせしてるんだったわ」
時計ウサギ「それは大変だ。遅刻はよくないよ」
帽子屋「まさかその言葉が君の口から出てくるとは思わなかったよ」
アリス「早く戻らなきゃ。帰り道はどっち?」
帽子屋「あぁ、アリス。君は外の世界の人間だから、ハートの女王に会わないと戻ることが出来ないんだよ」
アリス「外の世界?よく分からないけど、ハートの女王に会えばいいのね。ハートの女王のお城はどっちなの?」
時計ウサギ・帽子屋「あっち」
時計ウサギと帽子屋がそれぞれ反対の方向を指差す。
アリス「どっち!?」
時計ウサギ「帽子屋は昔から方向音痴なんだ。あっちだよ」
帽子屋「嘘つけ。方向音痴なのは時計ウサギのほうだよ。あっちがお城だ」
アリス「…わかったわ。とにかく進んでみる。ありがとう」
帽子屋「どういたしまして、アリス」
時計ウサギ「優しい君が無事に戻れるように、私たちはここで祈っているよ」
アリスが舞台袖へ。
それを見送ってから、お茶会のセットを片す。
アリスが出てくる側と反対側から花たちと木たちが現れる。
花「あら、人間なんて珍しいわね」
木「本当だ。迷い込んできたのかな?」
アリス「こんにちは」
花「どうしてここに人間のあなたがいるの?」
アリス「時計ウサギさんの落とし物を届けにきたの」
木「時計ウサギはうっかり者だからな」
花「慌てて落としても不思議じゃないね」
アリス「ところで、ハートの女王のお城ってどこにあるの?」
木「どこって、そりゃあどこかにあるだろう」
アリス「どこかじゃなくて、お城に向かう道を探しているの」
花「どの道もお城に向かっているよ。だって地球は丸いんだから」
アリス「そうじゃなくて…」
そこに、チェシャ猫が現れる。
チェシャ猫「やぁ、アリス。さっきぶりだね」
木と花が慌てだす。
花「チェシャ猫だ!」
木「いたずら好きのチェシャ猫だ!」
花「また踏み荒らされちゃう!」
木「また爪をとがれてしまう!」
花・木「逃げろー!」
木と花が走って舞台袖へ。
それを見送る二人。
アリス「チェシャ猫さん。私、ハートの女王に会いたいんだけど、お城に行く道が分からないの」
チェシャ猫「それなら僕が案内してあげるよ、優しいアリス」
アリス「…本当はね、私は優しくなんかないの」
チェシャ猫「どういうこと?」
アリス「確かに、落とし物を届けなきゃって気持ちもあった。でも、それ以上に時計を持った喋るウサギに興味が湧いたのよ。友達と約束していたのに、そこを離れてしまった。きっと今頃、約束を破った私に、キャロルは怒っているはずだわ…」
チェシャ猫「アリス。君はそのお友達のことが好きかい?」
アリス「もちろん。大好きよ」
チェシャ猫「それなら、きっと許してくれるさ」
アリス「そうかしら……そうよね。許してもらうためにも早く戻らなきゃ」
チェシャ猫「ハートの女王のお城はあっちだよ」
アリス「色々ありがとう、チェシャ猫さん。さようなら!」
チェシャ猫「あぁ。またね、アリス」
別々の舞台袖へ。
トランプたちが出てくる。
薔薇に色を塗る真似をする。
アリスが出てくる。
アリス「こんにちは。ここはハートの女王のお城で合ってる?」
トランプ「合ってるよ」
アリス「ありがとう。ところで、何をしているの?」
トランプ「今は白い薔薇を赤く塗っているんだ」
アリス「どうして?」
トランプ「女王は赤い薔薇が好きなのに、間違って白い薔薇を植えちゃったからさ」
アリス「このお花たちは喋らないのね」
トランプ「花が喋るだって?」
トランプ「おかしなことを言う子だなぁ」
アリス「だって、さっき…」
ハートの女王が出てくる。
トランプたちは慌てて整列し、アリスは薔薇の陰に隠れる。
女王「あぁ、綺麗な赤い薔薇だねぇ…」
女王が白い薔薇に気付く。
女王「何だいこれは!?誰が白い薔薇を植えろと言ったんだ!」
トランプたちは答えない。
女王が適当に整列しているトランプの中の一人を指差す。
女王「お前は死刑だ!」
トランプ「そんな…!」
女王「誰かこの私に文句でもあるのかい?」
トランプたちが黙って俯く。
アリスが陰から飛び出す。
アリス「あるわ!間違いは誰にだってあるもの。それで死刑なんておかしいわ!」
女王「何だ、この無礼な娘は!どうして人間がこんなところにいる!」
アリス「私はハートの女王に、帰り道を教えてもらいに来たの」
女王「私に?」
アリス「えっ、あなたがハートの女王なの?こんな理不尽なことを言う暴君が?」
女王「何て失礼な子だ…。まぁいい。人間なんて久しぶりに見たよ。ちょっとゲームをしようじゃないか」
アリス「ゲーム?」
女王「あんたが勝ったら、今までの無礼を許してやる。もちろん、帰り道も教えてやろう。その代わり、私が勝ったらあんたは死刑だ」
アリス「…わかったわ」
女王「よし。クロッケーの準備を!」
トランプの兵がフラミンゴとハリネズミを持ってきて、女王に渡す。
女王はハリネズミを床に置いて、フラミンゴで飛ばす。
女王「さぁ、次はあんたの番だよ」
アリスはフラミンゴとハリネズミを受け取る。
アリス「…無理よ。フラミンゴを逆さにしたりハリネズミを飛ばしたり、そんな可哀想なこと出来ない!」
女王「この私がせっかく与えてやったチャンスを無下にするなんて、どこまでも無礼な娘だ!ゲームを下りたあんたは死刑だ!やれ!」
トランプたちは顔を見合わせたりして動かない。
女王「聞こえなかったのかい?やれ!」
トランプたちがアリスを捕まえる。
女王「処刑台へ連れて行け!」
アリス「こんなのおかしいわ!」
登場はせずに声だけ段々大きく。
キャロル「アリス…アリス…!」
教室の電気を消す。
森の背景を片付けて、女王とトランプの兵たちは舞台袖へ。
アリスは中央で寝る。
帽子を被ったキャロルがアリスを揺する。
教室の電気をつける。
キャロル「アリス!起きて!」
アリス「あ…キャロル」
キャロル「うなされてるようだったから起こしちゃった」
アリス「あぁ…やっぱり夢だったのね!あんな不思議な世界、あるわけないもの!」
キャロル「遅れてごめんね」
アリス「いいの。私こそ寝ちゃっててごめんなさい」
アリスが立ち上がる。
アリス「行こう、キャロル!」
アリスが舞台袖へ。
キャロルはアリスを見送って、舞台中央で帽子を取る。
頭にはチェシャ猫の耳が。
キャロル(チェシャ猫)「不思議な世界は、案外近くにあるかもしれないよ?」
キャロルが帽子を被りなおす。
キャロル(チェシャ猫)「待って、アリス!」
アリスを追うように舞台袖へ。
終わり。
劇を実際に観てくれた方達へ。
アリスが登場する前の、
帽子屋「パンはパンでも食べられな…」
時計ウサギ「ショパン!」
帽子屋「……正解」
等のやりとりは、演者のアドリブです。最高でした。
クラスのみんなへ。
教室で文化委員と喧嘩をしたり、疲れて泣いてしまったりと騒がしかったよね。
不快な思いをした人もおったと思う。ごめんなさい。
言い訳に聞こえるかもしれんけど、何の役職もないうちが出しゃばったのは、みんなにとって最後の文化祭を良い思い出にして欲しかったから。
ずっと覚えてなくていいけん、せめて、「文化祭」ってありきたりな話題が出た時に「あの時は最悪だった。本当に嫌だった」って嫌な思い出にしてほしくなかったから。
そのために出来ることがあるって思ったら動かずにおれんかった。自分勝手でごめんなさい。
でも、みんなで協力してやりきれて、めっちゃ嬉しかった。ありがとう。
クラスが優勝できたのは、
堂々とした楽しい演技をしてくれた演者の人たち。衣装を貸してくれた優しい歌姫。
背景を描いてくれた人たち。場面転換の方法を考えて実践してくれた人たち。
小道具を作ってくれた人たち。音楽を決めてくれた人たち。教室の飾りつけをしてくれた人たち。
当日、うちが行けん時に、電気を消したり音楽を流したりしてくれた人たち。
みんなのおかげです。本当に、ありがとう。
みんなにとって、少しは良い思い出になることが出来たやろうか…?
うちは、想像以上に良い思い出にさしてもらえました。
長文になってしまってごめんね。最後に。
みんな、大好きです。