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アンサンブル  作者: 夕顔
4/5

文化祭も終わり、いよいよ夏がやってくる。夏休みだ。あの文化祭のステージから」、夜空は増々人気者になった。それと同時に、僕にも新しく友達ができた。そいつはクラリネットを吹いているらしい。木管パートに男子がいないと嘆く、吹奏楽部員だ。何度も勧誘されたが、僕が拒み続けた結果、

「その気になったら、こいよ。」

と言われた。


夏休み前日。終業式も終わり、午前中で帰れる貴重な日。帰ったら何をしようかと考えていると、

「朝陽」

と呼ばれた。この声はと思って振り返ると、案の定そこには夜空がいた。

「ん?どうした。夜空」

と僕が返すと、

「お互い名前呼びかよ。」

「まさか付き合ってんのかお前ら!」

といった冷やかしから嫉妬の声までいろいろ聞こえてきた。

「えっと…取りあえず来て。」

そう言うと、僕の手首をつかんで駆け出した。

教室からは、女子の悲鳴や、男子のどよめきが聞こえてきたが、気にならなかった。むしろ、気持ちがよかった。


夜空に手を引かれてやってきたのは、音楽室だった。

「何の話?」

僕はこれから始まることに少し期待していた。まさか告白……なんてな。

その通りだった。なんてことなかった。彼女の話は、僕の平凡な夏休み計画を、変えようとしていた。

「2人でソロコンに出よう」

「2人で?ソロコンって、1人で吹くやつだよね?」

「そうだよ。だから私は、伴奏者として出演するの。」

「えっ、ピアノ…」

「弾けるよ。」

すげー。と心の中で呟いた。

「っていうか、意外と反対しないんだね。文化祭の時は、あんなに反対してたのに。」

「それは…」

それば、文化祭があまりにも楽しかったから。君と演奏すると、音が、世界が、輝いて見えるから。

……なんて言えるわけない。

「よし。じゃあ決まりだね。曲はどうする?」

「カール・ライネッケの『ウンディーネ』の第4楽章がいいな。」

僕は、即答した。

「じゃ、それにしよう。」

夜空もすぐに同調してくれた。

「夜空は、この曲知ってるの?」

「まあ、聴いたことあるから。君のあのコンクールで。」

「ああ、あの人が、演奏していた曲だもんね。」

すると、夜空が少し緊張した様子で、問いかけてきた。

「朝陽、あの人の名前覚えてる?」

...え?

そういえば、あの人の名前はなんだ?

大切な人。忘れたくない人。


   初恋の人。


「わからない。....あっ。」

「思い出したの?」

「名前はわからない。でも、確か家に…ごめん夜空、今日は帰る。また明日な!」

と、言い残して走った。

僕の心にある、あの人の音を見つけ出すために。


家に帰りつき、かなり息がきれていたが、お構いなしに自分の部屋へ駆けあがる。

「確かここら辺に……あった。」

見つけ出したのは一冊の音楽雑誌。この雑誌にあの人の特集がある…はずだった。

「……なぜだ。」

彼女の記事だけが消えている。母に聞いても知らないという。昔あれだけ、あの人のことを話題にしていたのに。

その日の僕はあまりにも混乱していて、気づいていなかった。音楽室での夜空の声が、震えていたことに――



次の日の朝、何気なくスマホに目をやると、

「げっ、9時半!?ヤバい!」

遅刻だと考えていると、スマホが鳴った。電話だ。

「もしもし?」

―あっ、おはよう。私だけど。

「夜空!?今どこ?」

―今?家だけど。

「家!?お前も遅刻じゃん。」

―遅刻?何言ってるの?昨日学校で何したか覚えてる?

「昨日?昨日は終業式…あっ、夏休みだ。」

―遅刻なんでしょ?急いだら?

「うるせー」

完全にからかわれている。

「っていうか、なんで僕の番号知ってるの?」

―えっと、秘密!

「どおせ、ヒロあたりでしょ。」

―うっ、まあそれは置いといて、ソロコンのことなんだけど…

話し変えたな。それよりヒロ、覚えとけよ。

―本番まであまり時間がないから、これから毎日16時から19時まで学校の第二音楽室で練習ね。不都合ある?

「今日から?」

―うーん じゃ 明日から

「了解 楽譜とかどうするの?」

―うちにあるから 大丈夫だよ

「わかった じゃあまた明日」

―うん じゃあね 遅刻しないでね

「そう言うと 彼女は少し笑った」

―分かってるよ

「そう言って 電話を切った」

明日が待ち遠しい


次の日 16時少し前に行くと ピアノの音色が聴こえてきた

「失礼します」

「 はーい、って 朝陽か」

「先生は?一応挨拶しときたいんだけど」

「終業式の日に 宮原先生に許可もらったから大丈夫だよ」

「宮原先生って吹奏楽部顧問の…」

「そうそう ちなみに 吹奏楽部は部室 合唱部は第一音楽室で練習してるから気にしなくていいよ」

用意周到だな と 思っていると

「はい、楽譜ね」

渡されたのは『ウンディーネ第四楽章』。スポットライトの下で堂々と吹く女性が脳裏に浮かぶ

「 おーい 聞いてた?」

「どうやらぼーっとしていたようだ」

「 ごめん」

夜空は少し困ったように笑った

「 6時から合わせよ」

「 了解」

「 あっ 隣の部屋使っていいよ」

「ありがとう」


部屋に入ると 防音ながらも少しだけピアノの音色が聴こえてきた

「 やっぱ うまいな」

負けてられないな


一緒に練習し始めてから一週間がたった

「 そこ もう少しrit出来る?」

「うん いける」

じゃあ 同じところから 僕らは 元々やっていたこともあり 音取りなどはスムーズに終わった 勝負はこれから どう仕上げていくかが大切だ

優しく 強く 小さく なめらかに 色々な表現の仕方のピースの中で僕らは曲というパズルを埋めていく 一人じゃ辛くても二人なら出来る そんな気がした

「 ねぇ 朝陽」

「 ん?」

終了時間になった時 夜空が話しかけてきた

「 『ウンディーネ』の背景となるお話知ってる?」

「 え⁉︎知らない てか そんなのあるんだ!」

「調べとくのは基本!明日までに調べてきてよ」

「 そういう夜空は…」

「 調べてるよ」

「 どんな話?」

「 それは自分で頑張って ちゃっかり聞こうとしないの」

「ばれたか」

そう言って二人で吹き出した この時間が何よりも楽しかった


「 夜空!調べて来たよ」

「次の日 開口一番そう言った」

「 おっ!どんな話?」

「 えっと ウンディーネは水の精で人間に憧れている。ある日 騎士に恋をする。二人は結婚したんだけど。騎士が他の女性に恋してしまう。騎士がウンディーネを水の近くで罵ると 消えてしまった。騎士はその女性と結婚するが ウンディーネは妖精界の掟で騎士を殺さなければならない。そして 騎士を殺したあと 自分も死んで 騎士のお墓の周りの泉になったっていう悲恋のお話」

「 叶わない 報われない恋 別世界の人間 まるで私たちみたいだね」

「 えっ…それ どういうこと?」

「 ううん 何でも無い。さ、帰ろう」

「……うん」

私たちみたいだね

その言葉が頭から離れなかった


「 いよいよ明日だね」

コンクールを明日に控えた僕らはそんな話をしていた

「緊張する?」

「私はそこまで あんまり緊張しないタイプだから いいな 僕は結構緊張するタイプ」

「大丈夫 これまでやって来たじゃない 自信を持って」

「そうよ」

声のした方を向くと 宮原先生がいた

「 今までの演奏少しだけ聞こえてたんだけど とてもいいと思う うちの吹奏楽部より上手いんじゃないかな」

「 ありがとうございます」

「 じゃ 明日は自信を持って頑張って」

「 はい」

そう言うと宮原先生は去っていった

「 じゃあ今日はあと一回だけ合わせよう」

「 OK」

ピアノの旋律とフルートの音が混ざりあう 愛しい人を自らの手で殺めたウンディーネ 叶わぬ恋 愛しているのに 愛されない 彼女は何を思ったのだろうか

演奏が終わると 夜空が覗き込んできて言った

「 私はいなくならないよ」

「 えっ!?」

「 私は朝陽を後ろから支えてるだから 安心して演奏して。君は光で私は影 君が主役なんだから」

「 夜空……」

「 明日は二人で頑張ろう」

「うん。二人で …夜空 ありがとう」

明日はいよいよ コンクール―――






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