I
5月の爽やかな風が吹く頃、突然彼女はやって来た。
碧い瞳は凛とした強さを感じさせる海のような色。美しく豊かな金髪。透き通るように白く美しい肌は、どこか異国の姫を思わせた。誰もが魅せられた。
「初めまして、月影夜空です。」
鈴を転がしたような声とはこのような声かと思った。教室中がざわめく中、少しも臆することなく笑顔で話し続ける。
「私の父は日本人で、母はフランス人です。母によく似ているとよく言われます。いろいろ教えてください。よろしくお願いします。」
「月影は4月に君らと一緒に入学する予定だったんだが、帰国が遅れてしまったんだ。仲良くしてやれよ。」
「フランス人形みたい。」
「可愛いよね。」
そう行った女子のつぶやきや、男子の視線も気にせず、ただニコニコしている。鈍いのか?
「じゃあ席は…」
そう言って僕を見た。おい、やめてくれ。
「光丘の隣な。光丘、いろいろ教えてやるよーに。」
願いもむなしく、俺の隣になった。
「光丘かよ。」
「羨ましーぜ。」
クラスメートの愚痴が聞こえてくる。その時、視界に影がさした。目の前に立っていたのだ、彼女が。
「よろしくね。」
碧い瞳に見つめられ ドキドキする。と、前の席の栗山が振り向いて言った。
「いろいろだって。」
いやらしい笑い方をしながら、意味深に視線をぶつけてくる。うっとおしい。
とりあえず自己紹介をしておいた。
「僕は、光丘朝陽です。よろしく。」
「うん、よろしく。」
それだけ言うと、視線を前へ向けた。
クラスの連中の恨めしそうな視線が向けられていた。
それから一週間、彼女に教えることは何一つなかった。なぜかって、クラスの奴らが移動教室、休み時間のたびに彼女の元へ人が集まったからだ。彼女はよくあるようにいじめられてもおらず、逆に人気者だった。彼女の周りは、いつも華やいでいた。