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14/20

14 残り03年と07ヶ月20日


 ニーナは、エリオットに料理と家事の手伝いを再びしてもらうことにした。


 何も考えずに、決めたわけではない。

 彼の結末を見届けると決めた今、御者としての自分には目をつむることにしたのである。


 ただエリオットは、自分がこさえた料理を、もう一度ニーナに振る舞えることになったことに、それはもうはりきった。 


 食材なら豊富にあるからと、毎度毎度食べきれない量をテーブルに並べてくるので、最初は仕方がないと黙っていたニーナも、苦言を呈するはめになる。


 しかし、食事のたび面と向かって叱られても、ニーナがフォークを口に運べば、幸せそうに笑うので、あまり効果はないように思われた。


 「……ボクさ、ずっとララにヤキモチ焼いてたんだ。食事の時間になる度に、今ごろ運び屋さんのために料理を作ってて、その後は一緒に食べてるだろうな、って」


 ふとした時に、そんなことをエリオットが呟いたことがあった。

 ニーナは悩んで悩んで悩んだ末、それは聞かなかったことにした。


ララとは色々と衝突もしてしまったが、やはり、やるせない気持ちの方が勝ってしまう。しかし、おそらく彼女の気持ちには気付いていないエリオットに、わざわざそれを気付かせるようなことは言えなかった。


 ニーナとエリオットの生活は、表面上は2年ほど前の生活サイクルに戻っていた。


 魔女馬車の御者も変わらず続けているが、以前と変わってしまったこともある。

 ニーナは、魔女たちと顔を合わせるたび、どうしても抱かずにはいられない考えがあった。


 魔女を殺す方法である。


 人間と精霊の中間的存在だとされている彼女たちを、どう殺せばいいのか、そんなことを考えて、そして、そんなこと考えている自分の畏れ多さに芯が冷える。


 それだけではない。殺されそうになっているからといって、魔女を殺してしまってもエリオットは本当に無事なのか。


 何度も思考を巡らせては、巡らし切れず、色々と中途半端に言い残して消えた北の森の魔女を、ニーナは恨みがましく思った。


 もちろん、彼女の訪れをニーナもただ待っていただけではない。


 永久保存の魔法がかかるタグを付けていながら、成長していたエリオットの身体の謎もあったため、自分でも調べられることは調べていた。


 ニーナの父親もまた、生きた“積み荷”を10年間預かったことはないと言っていたが、父は単に自分の経験を語っただけで、代々の御者の記録をあたれば何か出るかも知れないと、馬車の地下にある書室へ何度となく通っていた。


 その合間に、北の森の魔女ではなく、花と岩棚の魔女が、約束通りに様子を見に来てくれていた。


 エリオットが再びニーナの手伝いをしていることに申し訳なくしていたが、ニーナたちも、そうやって気にかけてくれている彼女に、北の森の魔女との遣り取りを教えることは出来ず、互いに申し訳ない気持ちで、その日の席は終わる。


 また別の日こと、ニーナは御者席で手綱を握り、エリオットは昼食の準備をしていた時間帯だった。


 馬車を牽引していた馬が、突如としていななき、走行を強制的に停車させる。


 何事かと思えば、馬が地面を掘るように蹴っており、魔女馬車の地下で何かがあった事をニーナに報せてくれた。


 すぐさま地下へと下りれば、廊下で困惑顔をしたエリオットと出くわす。

 そこから物音と声が聞こえるのだと、彼が指さしたのは保管の扉だった。


 その保管庫は、魔女からの預かり物を管理する倉庫のひとつだが、受け取り拒否や居場所が特定できなくて、預かりの期限が切れたモノを保管している場所だった。


 扉は閉まっていた。魔女馬車にある部屋のほとんどは、御者であるニーナの手によらなければ開かない。


 そこから物音がしたと聞いて、ニーナは扉に耳をあててみるが聞こえてくるものはなく、意を決して扉を開けてみた。


 「…………」


 部屋の中に広がっていた光景を何と表現したものか、ニーナは迷う。


 見たままを言うなら、北の森の魔女が何本もの鎖でぐるぐる巻きにされ、天井から吊り下げられていた。


 鎖には、はじめて見る大きなタグが付いており、“不審者”ととても大きな文字で、何が起こったのかを分かりやすく説明していた。


 「ちょっと、何見てるの。ほら、助けなさい。早く」


 なすすべが無いのか、魔女は無抵抗で両足をぶらつかせている。


 つい見入ってしまったが、急いで踏み台を持ってきて、ニーナがタグに触れれば、魔女をぐるぐる巻きにしていた鎖は壁に吸い込まれるようにして消えていった。


 「まったく。このわたくしを絡め取るなんて、なんて下品な馬車なのかしら」


 ぶつぶつと文句を言いながら、魔女はニーナたちには目もくれず身なりを整える。


 「……あの、魔女様。ここで、いったい何を?」


 「ああ、そうね。ここって期限切れのモノを置いている保管庫でしょ。だから、魔女を殺せる道具くらいあるんじゃないかなって思って。で、部屋に入ったはいいけど、置いてあるモノに触った途端にあれだもの……」


 さらりと、耳を疑う発言をしたが、魔女はかまわずに続けた。


 「それでなんだけど、期限の切れたモノって、魔女馬車の所有物になるって聞いてるわ。しかも、当代の御者が好きなようにしてもいいって。だったら、魔女を殺せそうなモノを、そこの“積み荷”くんに売っちゃえばいいと思ったのよ」


 「え。で、でも、そんな事をしたら、運び屋さんが処罰を受けるんじゃ」


 ニーナを案じたエリオットが声を上げたが、魔女はどこまでも素っ気ない。


 「そうね。“積み荷”くんが、何をするのか分かってて売ったんなら、何のお咎めもナシってことにはならないでしょうね」


 「そんなっ」

 「とりあえず、魔女馬車の御者はクビになるわね」


 「――そ、それで?」

 「え、それだけよ」


 エリオットと魔女は、互いに思ってもみない事を言われたような顔をしていた。


 彼女の言葉が正しいならば、もともと御者を辞めるつもりだったニーナには、何の不利益にもならないことだった。


 「私情を挟んで売りさばいた御者も悪いけれど、こんな風に魔女を殺せるような代物をほったらかしにしてる方も悪いわよ。期限の切れたモノは、御者が好きにしていいって知ってるんだから、魔女側の責任も大きいわ」


 つまり責任の相殺によって、減刑されるということだろうか。


 「……でも、本当にそれだけで許されますか?」


 「うーん。じゃあ、もし罰を受けることになったら、二人で仲良く半分っこでもしてみたら? そのくらいの情状酌量はしてくれるでしょ」


 エリオットは、そこから鱗が落ちたように目を瞬く。


 「します! そうします! もし運び屋さんが罰を受けるなら、ボクも一緒に罰を受けます!」


 「そう。それじゃあ、これで解決ね」

 「はいっ」


 気掛かりがひとつ解決し、二人で盛り上がっていたが、その後ろでは、エリオットの気持ちが嬉しいやら、でも気が咎めるやら、頬が熱いやらで、持て余した感情を押し殺さなければならかったニーナもニーナで忙しかった。


 そうして保管庫を漁ることになったが、保管庫には様々なモノが安置されていた。


 最も多いのは貴重な薬草や鉱石といった素材関係で、次に魔法薬などである。手製の道具類は、いたずら程度のモノから本物の呪殺道具もあった。


 所有権が魔女馬車に移された時点で、受取人も差出人もタグから消去されるようになっているが、逆にその品名や効能、作用はタグが分析して明記されるようになる。


 代々の御者は、これらの品を自分たちで使ったり、他の人間に売ったりしてきたが、もちろん、そのまま使用するわけではなかった。


 タグを操作すれば、不必要な効能や作用を消去したり弱めたりすることが出来るのである。


 そうして魔女たちの魔力を吸収し、自らの動力に変換する機能が魔女馬車にはあり、さきほど北の森の魔女を天井から吊して無力化させたのも、おそらくその機能を応用していたのだろう。


 ニーナがタグを確認し、魔女がさらに詳しく調べていく事でひとつひとつ確かめていくが、数が数なので結局その日だけでは調べきれず、日を跨いだ次の日、ようやく保管庫の中身を調べ終えた。


 結論として、魔女を殺せると、魔女本人から明言された道具は5つほどあった。


 「…………」


 長剣や銀の矢といった武器類が3つ、蟲針や火の水といった道具類が2つ。

 ずらりと、それらを自分の前に並べられたエリオットは、押し黙った。


 ニーナと魔女の確認作業を横から見ていることしかできなかった彼は、魔女を殺す道具類をじっと見つめて、深く何かを考えている様子だった。


 「……大丈夫?」

 「え。う、うん。平気…だよ」


 平気そうには見えなかった。

 顔色は悪くなかったが、とても深刻そうな顔つきをしていた。


 魔女を殺す行為が現実味を帯びてきたからだろうかと、ニーナが考えていると、北の魔女が説明に入る。


 「人間と精霊の真ん中あたりにいるわたくしたちだけれど、不死身ではないわ。骨まで達する業火で焼き尽くされたり、首と胴を断たれれば死んでしまうのよ。だから、この“爪操り剣”と“火の水”を併用すれば、魔女を殺せる可能性は高いわ」


 そう言って差し出したのは、悪魔の手を象った長剣と、火の水が入った小瓶だった。


 特に木漏れ沼の魔女、水辺を住処にする魔女なら火は有効であるため、火の水を足止めに使い、爪繰りの剣でとどめを刺せばいいと北の森の魔女は言った。


 爪繰りの剣は、対峙した相手の命を奪うまで動き続ける呪いの武器らしく、剣術の心得が無くとも、剣が勝手に持ち主の手足を動かすようだった。


 「でも、少しは身体を鍛えた方が良いとは思うけどね。貴方、だいぶ細っこいし。っていうか、女の子みたいよ」


 「え゛っ」


 聞き捨てならなかったのか、我に返ったようにエリオットが反応する。


 自分の身体を見下ろして、それから意見を求めるようにニーナを見るが、ニーナは思わず、彼から視線をそらしてしまった。


 北の森の魔女は、二人の遣り取りに、小さく笑い出す。


 「まあ、あと3年以上あるんだし、その間に少しでも体力を付けておくといいわよ」






※6/7一部変更しました

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