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12/20

12 残り03年と11ヶ月29日

※R15描写有り


 加減が分からなくて、互いにおそるおそるだった。

 ゆっくりと、2つ分の呼気を感じながら唇を重ね合わせた。


 ソファに腰掛けながら、ほんの一瞬だけ触れ合わせた後、すぐに離れる。

つい目を開けば、至近距離にいたエリオットが目を瞬かせていた。


 「……なんか、びっくりした。柔らかいんだね、すごく」


 ニーナは小さく頷いた。すると彼は、ニーナの唇に視線を注がせる。

 その目から見て取れるのは、子供のような好奇心だった。


 「もう一回していい?」


 何だか実験でもするような口振りだったが、ニーナは黙って頷くことしか出来なかった。


 柔らかい唇で、柔らかい唇を感じるのは、はじめて知る感触だった。

 それが、ニーナの意志とずれたタイミングで触れてきて、同じように遠ざかっていく。


 エリオットは、もう一度ニーナに許可を取ってきた。みたび口付けるが、4度目からは許可を取らず、思うさまくっついたり離れたりを繰り返す。


 ニーナは焦った。エリオットが、互いの感触をもっと良く感じられる方法をすぐに見付けてきて、それを何度となく実践してくるものだから、彼の唇で唇をはまれる気持ち良さに眩暈がしてしまう。


 ひとしきり感触を分け合ったあと、ようやく止まってくれた。


 ただ、エリオットの攻め立てにニーナ恥ずかしいやら息苦しいやらで、逃げ腰になっており、その都度追いかけられたせいで、いつの間にかソファの上に押し倒されていた。


 クッションに寝転がった状態で、心臓を苛んでならない顔に見下ろされる。そこから好奇心の色は消えていた。その代わり、もっと別の色をニーナは見付けてしまう。


 「……前にさ、自分で読むようにって、医術書をボクに渡してくれたよね」

 「…う、うん」


 「それで……ボクは色々と知っちゃったわけだけど……運び屋さんは、どこまで知ってる? 男と女のあれこれについて」


 かっと、体温がいっきに上がった。

 この状況下でされた、その質問の意図を推し量れないほど、ニーナも幼くはない。


 けれど、今日はじめて心を交わして、唇まで交わしてしまったのに、さらにその先に進んでしまうなんて、とてもいけないことのような気がした。


 未知の領域に踏み込む怖さを思って、行為そのものの問題点を思って、思い止まる様々な理由が頭の中を駆け巡った末、ニーナは返事を返した。


 「――――た、た、た、ぶん…ぜ…んぶ」

 「……そうなんだ」


 密やかな声は、言いしれぬ艶を帯びていた。


 「それって、ボクにお手本を見せられるくらい?」

 「――――」


 声にならない声をニーナはあげる。


 「良かった。じゃあ、二人とも初めてだね。これも」


 言うなり、合意を得ずしてエリオットの手が動き出す。

 ニーナが身体の前で組んでいた両腕を、彼の両手がやや強引に開いていった。


 両腕を拘束されたまま、エリオットの視線に晒されるニーナの身体は、成長に伴ってそれなりに女を主張する体つきになっている。


 衣服の上からとはいえ、エリオットの目が、そのいたるところを上から下へ順々に撫でていくのをニーナは感じた。


 暴かれてはいけないものが、彼の眼前で暴かれていくようで羞恥に悶える。


 今ここでニーナが言えば、エリオットはすぐに止めてくれるだろう。

 止めて欲しいという気持ちが、ニーナにあれば。


 どうせ、この先にあるのは一緒になれない未来だけなのだから、自暴自棄になっている。そう言われれば、そうなのかもしれない。


 これが、互いの存在を感じ合える一番の方法なら、思い止まる必要などなく、何より、この行為そのものの先に、ニーナは得られるかもしれなかった。


 エリオットが間違いなく生きていたという証を、彼の血を、この身体に宿すことが出来るのだとしたら、ニーナはそれに別の未来を見てもいい気がした。


 両腕を拘束していたエリオットの手が、ニーナの手首を放す。

 彼がこれから何をするのか、呼吸を浅くして待った。


 壮絶な羞恥に耐えながら、エリオットの片手が自分の胸へと伸びるのを見て、顔を逸らす。そして―――


 「はあ……良くないわ」


 不意の声は、頭上からだった。

 正しくは、寝転がったソファの肘掛けの方から。


 「ごめんなさいね、色々な意味でお邪魔して。でも、言わせてちょうだい。メリバもね、悪くないのよ。むしろ好きだわ。でもね、わたくし基本的にハピエン主義者なの」


 ニーナが、人様にはとても見せられない格好で仰ぎ見たのは、人間とはセンスの異なる衣装に身を包んだ、それはそれは美しい魔女だった。







 ニーナは、エリオットを自分の上から突き落とした。


 「――うわっ」


 身構えることもできず床に転がった彼に、ニーナは謝りながら起き上がり、同時に乱れていない着衣の乱れを直した。


 そんな2人には目もくれず、北の森の魔女は優雅な足取りでニーナたちの前を歩いていく。テーブルを挟んだ向かい側で指を鳴らすと、一人用の豪奢なソファを出現させた。


 「さてと、どんな状況なのか説明はいいわ。だいだい聞いていたから。あ、盗み聞きの方も謝っておくわね」


 言いながら、ゆったりとソファに腰掛け、長い足を組む。


 「――あの、なんで、え? 盗み聞きっ?」


 「そう。貴方たちの遣り取りを聞きながら、どうしようかなぁ、とは思ったのよ。ああいう終わり方も、アリといえばアリだから。でも、ねぇ……」


 盗み聞きそのものに関して、ほとんど頓着してない魔女は、視線を流してニーナの隣り、腰をさすりながらソファに座り直したエリオットを見る。

 彼女から注がれる視線に、彼は戸惑った。


 「……あの、何か?」


 「貴方、本当にこのまま、魔女に食べられるだけの人生を、甘んじて受け入れてしまってもいいの?」


 「…………どういう?」


 「どうしてもっと、生き残るために足掻こうとしないの? 生き残る権利は、貴方にだってあるじゃない」


 ニーナたちは、魔女をただ見つめた。


 突然の来訪からまだ持ち直していないのに、突然と提示された生き残る権利とやらに、平然とついて行くには人生経験が圧倒的に足りなかった。


 「――え」


 「あら、わたくし前にも言ったわよ。生き残るために利己の選択をするのは、生きるモノの権利だって。それが、どれだけ愚かな選択だろうとね」


 「…………?」


 「じゃあ、こうも言ってあげる。昔々、幼い兄妹が魔女に食べられそうになりました。でも、食べられる直前に、魔女をかまどに突き落として焼き殺しました。そうして二人は助かりました。めでたしめでたし」


 あまりのことに絶句した。

 その物語は知っている。見れば、エリオットも知っているようだった。


 北の森の魔女が、何を言おうとしているのかは、ニーナにも理解できていた。

 けれど、その意味がはなはだしく直截で、すぐに言葉にすることが出来ない。


 「――――魔女を、殺せと?」


 言ったのは、エリオットだった。


 「飲み込みが早くてよろしい。要するに、殺そうとしている者に返り討ちを受けたって、誰も文句は言えないって事ね。それは魔女だって一緒。誰も文句は言わないわ。まあ、それでも文句を言ってくるのは、人間くらいなものよ」


 肩をすくめ、事も無げに言ってみせる魔女に、エリオットも黙り込んだ。


 二人して口を閉じてしまったが、魔女は双方の顔を見ては、口元に弧を描くばかりで自ら発言しようとしない。


 ニーナは、エリオットの様子をもう一度盗み見た。

 その横顔は何か思案している風で、だから彼の代わりに魔女へと問いかける。


 「――あの、でも……でも、どうやって?」

 「そうね。それが問題ね」


 魔女はそう言って、謎めいた微笑みを浮かべた。






いったん区切ります。

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