表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

第1話「双葉秋人という男」

夕焼けに包まれた教室

放課後の教室ではそそくさと皆帰宅の準備をしていた。

「秋人ー、カラオケ行こうぜー」

呼びかけるこの男は村田泰樹ムラタ ヤスキという。

生まれ持っての茶髪のせいかチャラく見えるが、中身は臆病でうぶな奴だ。

そして呼ばれたこの俺。

名前は双葉秋人フタバ アキヒトという。

自分では普通の人間と思っているが、クラスメイトからは地蔵と呼ばれている。

「いーよ」

軽く答える

「じゃあ決まりなっ!他に誰か…」

泰樹が誰を他に誘おうかと見回す。

「なに?カラオケ行くの?」

ふとそんな女の子の声がする。

「お、榊か」

泰樹がそう呼んだ。

その女の子は榊美咲サカキ ミサキという。

俺の幼馴染という奴だ。

「えっと村田くんと…秋人も行くんでしょ?」

「ごめん泰樹、やっぱ用事あったわ」

俺は椅子から立ち上がり、荷物を持って泰樹に向かいながら「ごめん帰るわ」と告げる。

「お、おい、俺は榊と二人で行けってか!?」

焦りながら口早に俺に言うが、俺は教室を出て行く。

その時、美咲の方を一瞥した。

彼女は悲しそうな寂しそうな苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

その顔は俺に何か言いたげだったが、俺は構わず立ち去った。


気がつけば俺はいつもの公園に来ていた。

幼少の頃から父と母と姉と4人で遊んでた公園だ。

あの頃は出来たばかりで新品だった滑り台も錆びついてしまっている。

ここに来ると落ち着くような気がする。

そして、美咲があの時言っていたことを思い出す。

『秋人はすごく心に響かせる写真が撮れるんだから、写真部入ってよ』

何度も何度も俺を勧誘してきた美咲のことを思い出す。

「写真か…」

ふとスマホのカメラを開く。

瞬間。

とてつもない吐き気に襲われ、公園の排水溝に吐いてしまう。

「おぇ…」

涙と鼻水と唾液にまみれた顔を公園の蛇口の水で洗う。

何も変わらない。何も。

あの頃から俺も、この公園も。

しかし周りを見て気づく。

この公園にいつもはいないような存在。


1人の女性。


夕焼けに照らされ彼女の端整な顔立ちがさらに暖かみを浴びる。本当に美しい女性。いや少女である。

俺はその姿全てを見た時、体が勝手に動き出した。

自分でもわからないうちにブリキのロボットのようにぎこちない動きで気付けばスマホのシャッターを押した。


カシャリ


その音で驚き彼女はこちらに気づく。

振り向いた眼はまるで琥珀のように澄んでいた。

「盗撮…?」

不意にそう疑われる。

「あ、いや、その…」

それが彼女、鈴衛凛スズエ リンとの出会いだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ